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俺の立ち位置

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 奏芽かなめの、妹へのひねくれた溺愛のお陰で音芽おとめは自分のことを不細工だと信じている節がある。

 幼い頃に奏芽が音芽に意地悪で言った、「音芽は不細工だから誰のお嫁さんにもなれない」って言葉は、恐らく今も音芽を縛り続けている。
 奏芽的には「だからずっと兄ちゃんじぶんたちのそばに居ればいい」の裏返しみたいな言葉だったと思うんだけど、俺はそれを知っていてあえて奏芽の真意を音芽に教えなかった。

 ばかりか、奏芽あにの言葉に傷ついて泣きじゃくる音芽に、「音芽は大きくなったら俺のお嫁さんになるんだろう? だったら奏芽かなめの言うことなんて気にする必要ないじゃないか」って付け入って、その愛らしい唇にやんわり触れた。
 子供だったからその約束をどう形にしたらいいのかよく分からなくて、そこら辺に咲いていた花でを作って音芽の小さな指にはめて、「約束の指輪だよ」って言葉で音芽を縛った。

 幼い頃から誰が何と言おうと、音芽は俺の嫁にするんだって心に決めていたし、その座は実兄の奏芽にだって譲る気はなかった。

 大きくなって、実の兄妹きょうだいは結婚出来ないのだと知った時の安堵感と、奏芽には越えることのできない「俺だけの特権」という自負。

 
 音芽は、幼い頃すぐにしおれて枯れてしまう指輪とともに交わしたあの稚拙な〝約束〟を覚えているだろうか?

 ま、覚えてなかったとしても俺、絶対に音芽を離すつもりはねぇし関係ないけどな。


 そんな昔のことをふと思い出していたら、音芽おとめがそわそわした様子で俺に声をかけてきた。

「あ、あの……温和はるまさ

 お前何だってそんな不安そうな顔してんだよ? 俺までザワザワしてくんだろ。

 そう思いながらも、素直に心配する声が投げかけられないひねくれ者の俺は、ハンドルを握る手に少しだけ力を込めながら「なんだ?」と前方を見つめたまま素っ気なく返す。
 声に極力抑揚よくようをつけなかったのは、音芽の一挙手一投足に右往左往してしまいそうになる情けない俺を、彼女に気取られたくなかったからだ。
 
「もしかして……小さい頃に私をお嫁さんにしてくれるって言ったの、覚えていたり……する?」

 そんな虚栄心の塊みたいな俺が、今まさにそれ思い出して浸ってましただなんて、バカ正直に言えるはずがない。
「んな昔のこと覚えてるわけねぇだろ」
 全くもってその通りのくせに、一蹴いっしゅうするみたいにそう即答したら、音芽がホッとした様な顔をしやがる。

 何だよ。
 そんな昔の約束に縛られている様な、女々しい男は嫌か?
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