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*ふたりの初めて

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 対して、俺は自分の気持ちと向き合うのが怖くて逃げていただけの臆病者だ。

 頭の中では自分が1番卑怯だと分かっているくせに、俺はここでも音芽おとめを責めてしまうんだ。

「この状況でよそごと考えられるとか、結構余裕だな」
 とか。
 そんな、心にもないことを言って音芽を睨んだのは、これ以上俺のずるさに気づいて欲しくなくて牽制しただけ。

 本当は“これ以上俺の嫌な面を見つけないで”が正解なのに、なんでこんな時までこんな言い方。

「なっ……」

 音芽がそんなことないと言いたげに口を開きかけたけれど、俺はそれさえも許してやることが出来なかった。

 俺の中の嫌な部分を、綺麗な音芽に受け入れて薄めて欲しい。

 半ば衝動的に音芽のシャツワンピのボタンに指を掛けると、音芽が慌てた様子で俺の手を押さえてきた。

「あ、あのっ」
 どこか怯えた目で俺を見て、恥ずかしそうに
「わ、私っ、あのっ、スタイルよくないし……それにそれにっ」
 オロオロしながら俺の手を握る指先に力が込められる。

 俺なんかには勿体無いぐらいに、音芽は心も身体も純潔で美しい。
 なのに、何でそんな自分を卑下するみたいな言い方!

音芽おとめ、ホント、バカだな。見たいって分からねぇの?」

 気がつけば、俺は自分の手を止めていた音芽の手首を掴んで、もう一方の手と一緒に一纏ひとまとめにして押さえつけていた。

 そのまま音芽を見下ろして
「いい加減……覚悟決めろ」
 苛立ったような、切羽詰まったような声になったのは、こんな俺でも音芽に触れていいのだと、彼女自身に認めて欲しかったから。

 両手を押さえられて、不安そうに俺を見上げてくる音芽の視線が戸惑い揺れているのが怖くて、俺は畳み掛けるように言い募る。

「お前が欲しくて限界なの、俺だけかよ?」
 ――お前は、俺が欲しくないの?

 懇願するみたいに問えば、
「そんなこと、ないっ」
 音芽がそう言って頬を赤らめた。

 言葉にこそ出さなかったけれど、その目は確かに情欲に潤んでいて、俺には「私も温和はるまさが欲しい」と誘ってくれているようにしか思えなくて。

 恥ずかしさに耐えられないみたいにギュッと目をつぶる音芽に、俺は許しを乞うみたいに唇を奪う。

「は……る、まさ……」

 キスの合間を縫うように、音芽が俺の名を呼んでくれて、そのたびに俺はどんどん追い上げられていく。
 こいつのことを好きで好きでどうしようもない気持ちを、どうやったら伝えられる?

 音芽に呼びかけられるたびに深くする唇の合わせ方で、この鈍感娘は、少しは俺の気持ちを汲んでくれるだろうか?

「んっ、あ、……んっ、はぁ」

 涙に泣き濡れた瞳をして、ぎこちなくも懸命に俺の求めに応じようと必死になる音芽が愛しくて仕方がない。
 喉が焼け付きそうなくらいに強く、俺はこいつを自分だけのものにしたいと、渇望した。
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