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*ふたりの初めて

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 俺は大学生の頃、音芽おとめを諦めようと無駄な足掻きをしたことがある。

 幼なじみのように身近で、でも成長するにつれどんどんその存在を遠く感じるようになってしまった音芽。そんな彼女に好きだと気持ちを打ち明けて、それまでに築き上げてきた家族ぐるみの生温い関係を失うぐらいなら、その心にふたをして兄として振る舞った方が楽なんじゃないかと思って。

 音芽を好きな気持ちが強くなりすぎて、下手をすれば彼女を襲いかねないと自覚してからは、そうならないように音芽を避けて他の女の子たちと付き合ってみたりもした。

 でも所詮気持ちは音芽に向いたまま。そんなので他のとうまくいくはずなんてなくて。

 ただ欲望を吐き出すためだけに異性にれるのと、好きな子にさわるのとで、こんなに充足感に差があんのかよ。

 音芽とだったら、キスだけでイケそうな気さえする。

 ほんの少し舌を絡めただけで、音芽が涙目で俺にすがってくるのとか、本気で色っぽ過ぎる上に、めちゃくちゃ可愛いとか、抑えがきかなくて困んだろ。

「――?」
 と、そこでふと、音芽が俺を見る目にほんの少し。
 嫉妬に似た、どこか咎めるような色があるのに気がついた。
 これって絶対、俺が音芽との行為が初めての女性経験じゃないことを気にしてるんだよな。

 俺だってそこはすごく申し訳ないと思う。

 音芽おとめが俺のことを好きだと分かっていたら、他の女となんて絶対に寝たりしなかったのに。

 考えても詮無いことだけど、どうしても後悔の念が募る。

 そして同時に、そんなことを思ってしまうこと自体、俺のことを好きになってくれた他の女の子たちに対してむちゃくちゃ失礼だとも思う。ともすると、音芽の責めるような眼差しは、同じ女としてそこにも向いている気さえして。

 考えてみたら、音芽は俺がコイツのこと好きかどうかなんて知らなくても、俺みたいに他の人間でその穴を埋めようとはしなかったんだ。

 そういう潔癖なところも含めて、俺は音芽に完敗だ。

 いや、音芽だけじゃねぇな。

 本気で1人の女を好きになるってことが分からなくて、守備範囲に収まる異性と手当たり次第に付き合ってみて模索していた奏芽かなめにでさえ、俺の方が負けている気がするんだ。
 だって奏芽は、俺みたいに別の女を思いながら相手を抱くようなことはただの1度もしていないはずだから。
 付き合った異性の数こそ俺より遥かに多いけど、奏芽は二股なんかは絶対に掛けない付き合い方をしていたのを俺は知っている。
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