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音芽の本心

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「嫌いじゃないってことは……好きでもないってことだよね?」

 案の定、音芽おとめがムスッと頬っぺたを膨らませて俺の腕の中で身じろいで、下から仰ぎ見るように俺を睨みつけてきた。

 そんな彼女に、心ん中では「すまん音芽。俺の言い方が悪いよな」って謝ってるくせに、やっぱりそれを口に出したら「バカっ、お前。少しは察しろよ」って、なって。

 一生懸命伝えたいと思えば思うほどドツボにはまる。

 素直に思いを言えていないくせに、そんな言葉ですら音芽に伝えたら、大層な愛の告白をしたみたいに思えて恥ずかしくなって。俺は慌ててそっぽを向いた。

 そんな俺に音芽おとめが言うんだ。

「私ね、初めてはちゃんと気持ちを伝えてくれる人と付き合いたいの。だから、申し訳ないけど好きって言ってくれない温和はるまさとは無理。難しいかもしれないけど……私を好きって言ってくれる人を見つけて、その人のこと好きになって、その人とお付き合いするっ!」

 って。――なぁ、ちょっと待てよ、嘘だろ!?

 さっき俺のこと好きだと言ったのと同じ口で、他のやつと付き合うとか……冗談でも言われたくない。

 俺はどうやったら音芽おとめを引きとめらるのか必死に考えた。

 考えたけどいい案が浮かばなくて。でもどうしたらいいか分からないくせに、そのままには出来なくて。
 俺は気が付いたら「音芽……」って後先考えずに呼びかけていた。

 緊張でいつもより声が低くなってしまったのは仕方ないだろ、許せ。

 俺の呼びかけに、音芽おとめが俺をじっと見つめてきて――。その真っ直ぐな視線と、色素の少し薄い綺麗な瞳。
 その姿があんまりにも可愛くて、今すぐにでも抱きしめたくなってしまう。
 でも、分かってる。
 今やるべきことは、それじゃない。

 俺は音芽をじっと見つめて、一生懸命言葉を探す。

 日頃心裏腹な言葉しか音芽に言えない俺の口は、素直に話そうとしただけで照れくささでどうにかなってしまいそうな気がした。
 でも、それを克服してでも、俺は正直な気持ちを彼女に伝えて、音芽を引き止めないといけないんだ。

音芽おとめ、俺、ちゃんと……好き、だから。……多分、お前が思ってる以上に、俺はお前のことを想ってる……と、思う。だから……他の奴に行くとか、冗談でも……言うなよ」

 搾り出すように出した声は、今にも泣く寸前のそれみたいに聞こえて、自分でもすげぇ恥ずかしかった。

 でも音芽、これが嘘偽らざる俺の本心だ。――だから、頼む。
 俺の傍にいるって言ってくれよ。
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