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音芽の本心

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 病院に行って、パニック状態の逢地おおち先生をなだめてから、何とか鶴見つるみの入院手続きを終えた。

 肝心の鶴見自身が怪我の痛み止めで意識が朦朧としていて、しっかりと受け答えが出来なかったのには参った。
 どうやら彼には両親はいない?らしく、唯一の肉親である祖母も、遠方の施設に入所しているので駆けつけるのは無理と言うことだった。

 病院スタッフを捕まえて聞いてみたら、入院同意書に関しては成人している人間ならば身内じゃなくても大丈夫らしく。
 俺が書くしかないかと思っていたら、逢地おおち先生に、「最初に鶴見先生に頼られたのは私なので私に書かせてください」と言われて、ボールペンを奪われた。

 まぁ鶴見自身も、一悶着あった俺に書かれるよりは、逢地おおち先生に書いてもらう方が気が楽だろうと思って、お任せすることにした。

 鶴見は音芽おとめに対しての所業こそ頂けなかったが、基本的には真面目な男だと思う。

 入院同意書には、患者本人が治療費等の支払い能力がない場合は身元引き受け人として署名した人間――今回の場合は逢地おおち先生だ――に支払い義務が生じるようなことが書いてあったけれど、心配する必要はないだろう。

 そういう書類を書いているうちに逢地おおち先生も徐々に落ち着きを取り戻してきた。
 俺は彼女に声をかけて、校長などには俺から連絡しておく旨を伝えてから病院を後にした。


 逢地おおち先生には申し訳ないが、俺には職場の同僚よりも音芽おとめの方が大事なんだ。

***

 くだんの病院から我が家まで、車で片道20分。
 はやる気持ちを抑えながら、俺は音芽おとめの待つアパートを目指した。

 音芽は話の途中で逃げ出すように彼女をひとりにした俺を、許してくれるだろうか?

 もし扉を閉ざしたまま会ってくれなかったらどうしよう?

 自分で音芽から逃げ出したくせに、いざそれをやらかした後で、そのことが取り返しのつかないミスに思えて戸惑うとか――。

 俺はどうしようもなく情けない男だ。

***

 アパートに着いて2 階を見上げたら、音芽おとめの部屋の明かりは付いていないように見えた。

 代わりに、俺の部屋の電気は煌々と付いたままで。

 もしかして、あいつ、まだ俺の部屋にいたりするんだろうか。

 そんなことを思いながら恐る恐る自室のドアノブを回したら、あろうことか鍵が掛かっていなくて。

 まさかな、と思いながら中に入ったら、俺がここを出たときのまま、音芽がベッドの上にいた。
 ただ、最後に見たときと違うのは、彼女がそこへ寝そべっていることくらい。

 ベッドサイドに立って見下ろしたら、こちらに背を向けて丸まった音芽が、いつも以上に小さく見えた。
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