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俺は一瞬だけ躊躇うように音芽を見詰めてから、これ以上彼女を困らせるべきではないと判断した。
「ごめん」
一言そう言い残して、音芽から逃げるように、電話に応答する。
***
「もしもし。逢地先生、さっきは出られなくてすみません。え? 今ですか? はい、ええ。大丈夫です。――どうしました?」
画面をろくに見もせずに出た電話の先、とても逼迫した様子の逢地先生の声がして――。
さっきの着信を無視してもまた掛かってきて、尚且つこの声音。
これは絶対緊急事態だ。
そう思った俺は、スマホを片手にキッチンの方へ行く。
音芽も気にはなるけれど、でも……きっとこれ以上あいつのそばにいたら、俺は音芽を傷つけるだけだ。
『きっ、霧島先生っ! ……鶴見先生がっ。あのっ、私、どうしたらいいか分からなくてっ、それでっ』
電話口から、日頃はのほほんとした口調の逢地先生が、かなり取り乱した様子で悲痛な声を出す。
「逢地先生、落ち着いてください。何があったんですか? ――え? 鶴見先生が……事故……?」
動揺のせいか、いまいち要領を得ない逢地先生をなだめながら、ゆっくりとひとつひとつ話を聞いていくと、どうやら 鶴見が事故を起こして病院へ運ばれたらしい。
何故、家族や校長や管理職などをすっ飛ばして、養護教諭の逢地先生に連絡が行ったのかは不明だが、鶴見自身からSOSの電話を受けた逢地先生が、パニックを起こしているというのが真相のようだ。
『あのっ。霧島先生っ。わ、わたっ、私、どうしたらいいのか分からなくてっ』
悲痛な声音で訴えてくる逢地先生に、努めて静かな声音で
「逢地先生、今どこですか?」
と聞いたら、市内の総合病院の名を告げた。
「分かりました。――俺もすぐ向かいますので、そのまま待っててください」
俺は、まるで音芽から逃げたいみたいに逢地先生からの電話に飛びついた情けない男だ。
ごめんな、音芽。
俺に。
ほんの少しでいいから……冷静になるための時間をくれないか?
「ごめん」
一言そう言い残して、音芽から逃げるように、電話に応答する。
***
「もしもし。逢地先生、さっきは出られなくてすみません。え? 今ですか? はい、ええ。大丈夫です。――どうしました?」
画面をろくに見もせずに出た電話の先、とても逼迫した様子の逢地先生の声がして――。
さっきの着信を無視してもまた掛かってきて、尚且つこの声音。
これは絶対緊急事態だ。
そう思った俺は、スマホを片手にキッチンの方へ行く。
音芽も気にはなるけれど、でも……きっとこれ以上あいつのそばにいたら、俺は音芽を傷つけるだけだ。
『きっ、霧島先生っ! ……鶴見先生がっ。あのっ、私、どうしたらいいか分からなくてっ、それでっ』
電話口から、日頃はのほほんとした口調の逢地先生が、かなり取り乱した様子で悲痛な声を出す。
「逢地先生、落ち着いてください。何があったんですか? ――え? 鶴見先生が……事故……?」
動揺のせいか、いまいち要領を得ない逢地先生をなだめながら、ゆっくりとひとつひとつ話を聞いていくと、どうやら 鶴見が事故を起こして病院へ運ばれたらしい。
何故、家族や校長や管理職などをすっ飛ばして、養護教諭の逢地先生に連絡が行ったのかは不明だが、鶴見自身からSOSの電話を受けた逢地先生が、パニックを起こしているというのが真相のようだ。
『あのっ。霧島先生っ。わ、わたっ、私、どうしたらいいのか分からなくてっ』
悲痛な声音で訴えてくる逢地先生に、努めて静かな声音で
「逢地先生、今どこですか?」
と聞いたら、市内の総合病院の名を告げた。
「分かりました。――俺もすぐ向かいますので、そのまま待っててください」
俺は、まるで音芽から逃げたいみたいに逢地先生からの電話に飛びついた情けない男だ。
ごめんな、音芽。
俺に。
ほんの少しでいいから……冷静になるための時間をくれないか?
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