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音芽の訪問
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俺はそれでも音芽の肌の誘惑に勝てなくて、ワンピースの隙間からちらりと覗く、女性らしいピンクのレース――ブラ――に吸い寄せられるようにそこへ鼻先を寄せた。
ふわりと、石鹸の香りに混ざって音芽自身の甘やかな体臭が香る。
何でこいつはいつもこんないい匂いがするんだろう。
惹かれ合う男女というのは、往々にして「HLA遺伝子」という免疫に関わる遺伝子情報が、自分とは異なる相手であることが多いのだと、以前何かで読んだことがある。
要するに子孫繁栄の観点から見て、病気になりにくい子を遺すための動物的本能いうことなんだろう。
俺はこんなに音芽の匂いが好きで好きでたまらないけれど、音芽が俺自身の体臭をどう思っているかなんて聞いたことはない。
一応音芽と接する時には身だしなみにはいつも以上に気を遣っているつもりだけど、「くさい」とか思われてたらショックだな。
そんなことを思って、音芽の胸元で小さく吐息を落としたら、音芽がハッとしたように身じろいだ。
同時に、今まで熱に浮かされたような顔をしていた音芽が、明確な意思を宿した目で俺を見上げてきて。
彼女の服に掛けたままだった俺の手首を掴んで、小さく首を振ってイヤイヤをした。
ああ、さすがにゲームオーバーか。
音芽のその反応に、俺は慌てて彼女の胸元から手を引いた。
そう、俺は無理矢理音芽を犯したいわけじゃないんだ。
そんなバカな真似をして、音芽を失うのは真っ平ごめんだ。
「……温和、私ね、こ、んなの、嫌、だよ……? 恋人でもない相手に……こういうのは……ダメ……」
そんなこと、言われなくても分かってるよ、音芽。
けど、改めて言われると結構くるな。
音芽は俺を押し留めたくせに、完全には拒絶できないみたいに、戸惑いに揺れた瞳で俺を見つめてくる。
なんだ、この違和感。
でもそんなちぐはぐさを感じさせられたのはほんの一瞬で。
音芽は深呼吸するように何度か大きく息を吸ったり吐いたりして呼吸を整えると、俺をまっすぐに見つめてきた。
「それに私、話したいこと、あるって……言った、よね? まずは約束通り、話、聞いてよ? こういうこと、したくて、可愛い格好を、してきたわけじゃ、ないんだよ? 温和の言いつけを守らなかったのは……私も良くなかった、けど。でも、だからって……こういうのは……鶴見先生のやり方と変わらないって思わない?」
鶴見と一緒だと言われて、俺は胃の腑から苦いものがこみ上げてくるのを感じずにはいられなかった。その不快感に、思わず下唇を噛みしめる。
いくら好きな女が魅力的な格好をしてきたからって、無理矢理手を出すのは反則だ。
そもそも男の力に、非力な女が敵うわけがない。
俺が本気を出せば、音芽をモノにすることなんて、きっと造作もないことだ。
でも、俺は音芽の身体が欲しいわけじゃない。
欲しいのは“心”なんだ。
自己嫌悪でうつむきがちになってしまった俺に、音芽が恐る恐る声をかけてくる。
「温和……。……あのね、私――」
ふわりと、石鹸の香りに混ざって音芽自身の甘やかな体臭が香る。
何でこいつはいつもこんないい匂いがするんだろう。
惹かれ合う男女というのは、往々にして「HLA遺伝子」という免疫に関わる遺伝子情報が、自分とは異なる相手であることが多いのだと、以前何かで読んだことがある。
要するに子孫繁栄の観点から見て、病気になりにくい子を遺すための動物的本能いうことなんだろう。
俺はこんなに音芽の匂いが好きで好きでたまらないけれど、音芽が俺自身の体臭をどう思っているかなんて聞いたことはない。
一応音芽と接する時には身だしなみにはいつも以上に気を遣っているつもりだけど、「くさい」とか思われてたらショックだな。
そんなことを思って、音芽の胸元で小さく吐息を落としたら、音芽がハッとしたように身じろいだ。
同時に、今まで熱に浮かされたような顔をしていた音芽が、明確な意思を宿した目で俺を見上げてきて。
彼女の服に掛けたままだった俺の手首を掴んで、小さく首を振ってイヤイヤをした。
ああ、さすがにゲームオーバーか。
音芽のその反応に、俺は慌てて彼女の胸元から手を引いた。
そう、俺は無理矢理音芽を犯したいわけじゃないんだ。
そんなバカな真似をして、音芽を失うのは真っ平ごめんだ。
「……温和、私ね、こ、んなの、嫌、だよ……? 恋人でもない相手に……こういうのは……ダメ……」
そんなこと、言われなくても分かってるよ、音芽。
けど、改めて言われると結構くるな。
音芽は俺を押し留めたくせに、完全には拒絶できないみたいに、戸惑いに揺れた瞳で俺を見つめてくる。
なんだ、この違和感。
でもそんなちぐはぐさを感じさせられたのはほんの一瞬で。
音芽は深呼吸するように何度か大きく息を吸ったり吐いたりして呼吸を整えると、俺をまっすぐに見つめてきた。
「それに私、話したいこと、あるって……言った、よね? まずは約束通り、話、聞いてよ? こういうこと、したくて、可愛い格好を、してきたわけじゃ、ないんだよ? 温和の言いつけを守らなかったのは……私も良くなかった、けど。でも、だからって……こういうのは……鶴見先生のやり方と変わらないって思わない?」
鶴見と一緒だと言われて、俺は胃の腑から苦いものがこみ上げてくるのを感じずにはいられなかった。その不快感に、思わず下唇を噛みしめる。
いくら好きな女が魅力的な格好をしてきたからって、無理矢理手を出すのは反則だ。
そもそも男の力に、非力な女が敵うわけがない。
俺が本気を出せば、音芽をモノにすることなんて、きっと造作もないことだ。
でも、俺は音芽の身体が欲しいわけじゃない。
欲しいのは“心”なんだ。
自己嫌悪でうつむきがちになってしまった俺に、音芽が恐る恐る声をかけてくる。
「温和……。……あのね、私――」
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