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音芽の訪問

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 音芽おとめに男として見られていないのかも、と思ったら段々苛立ちが募ってきた。

 俺はこんなに音芽のことを女として見ているのに、彼女にとって俺はベッドに押し倒されても尚、自分を襲わない"お兄ちゃん”なのか?

 そう思ったら、違うと思い知らせてやりたい気分になって。
 ……というより、俺のことを男として意識してもらいたくて、俺は音芽の言葉を無視して彼女との距離を詰める。

 さすがに肌が触れ合わんばかりの至近距離に迫った俺にまずいと思ったのか、音芽が俺の胸に両手をついて必死で押し戻そうとしてくる。

 なぁ音芽。
 俺が本気を出したらお前がどんなに抗ったって押し退けられないって、今ここで思い知らせてやろうか?

 そんなことまで思ってしまって、こんなこと言うつもりなんてなかったはずなのに、声を意図的に低めて「とりあえず黙って目ぇつぶれよ」と音芽の耳朶に吹き込んでしまう。
 そう。音芽がこういう命令口調に弱いのを知っていてわざと――。

 案の定、俺の声音に観念したように音芽の身体から力が抜けてしまったのを感じて、そのことにますます苛立ちが増していく。
 バカ音芽。何でお前、そんなに従順なんだよ! 普通はそこで逆らうもんだろ!?

 俺じゃない男にも、同じようにされたらこんな風に腑抜けになってしまうんじゃないかと思ったら、俺はドス黒い感情に呑まれて自分を律することが困難になってくる。

 脅しだけのつもりだったけど、こんな風に素直になられたら、やめてやれなくなるじゃねぇか。

 音芽おとめ、お前が本気で「離れて!」って言えば、今ならどうにか……俺はお前を突き放して「冗談だ、バカ。思い知ったか」って言ってやれるぞ?

 そんな思いを抱きながら、怯えたように俺を見上げる音芽の顔を見下ろしたら、目の前でギュッと目をつぶられて――。

 ちょっと待て。これって……キスしても良いってことか?
 っていうかそうじゃないとしても! さすがにこんなんされて、俺、我慢とか無理だから!

 俺は、理性なんて取っ払ったみたいに、半ば吸い寄せられるように音芽の唇に自分のものを重ね合わせてしまった。

 最初は音芽の様子を探るように軽く。
 それでも彼女が抵抗しないと分かると、どんどん歯止めが利かなくなって、キスの角度も徐々に深くなっていく。

 気が付けば、夢中で貪るように音芽の口中を舌でかき回してしまっていて。

 逃げ惑う音芽の舌を追い詰めて……絡め取って……。舌同士を擦り合わせたり、口蓋をくすぐるように舐め上げたり。
 触れ合う音芽の唇がとても柔らかくて……。
 余りに甘美な感触に、彼女の唾液までも甘やかに感じられて歯止めが効かなくなる。
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