上 下
73 / 168
3人でパンケーキ

6

しおりを挟む
 俺の問いかけに、音芽おとめは一瞬きょとんとしてから、「うーん」と考えた。

 ややしてあることに思い至ったように眉根を寄せるのを見て、俺は思わず
「ま、お前が運転するとか考えるとゾッとするからやめといて正解だな」
 と先手を打ってしまった。ああ、俺の馬鹿。また言わんでもいいことを。

 思いはするもののこれにはそれなりの理由があるわけで。

 そう、音芽は免許こそ持っているものの、超ド級に運転下手というか……運転のセンスがないんだ。

 俺の心ない言葉にぷぅーっと頬を膨らませる音芽に、「お前の運転練習に付き合わされたことあんだから、当然の反応だろーが?」って言ったら、さすがに黙り込んだ。

 音芽はどんなに教えてもミラーの使い方もうまくならねぇし、とあるスーパーのだだっ広い駐車場で駐車練習させてみても何度も何度も同じ軌跡を描くばかりで一向に白線内に車を収められなくて。
 挙げ句、テンパってアクセルとブレーキ踏み間違えるし……。
 たった数時間のレッスンで、俺がどんだけ寿命を縮められたか……。
 正直な話、なぜこれで免許が取れた!?と思った俺だったけれど、音芽自身もそう思ったらしい。

「もういいよ、ハルにい。私、免許証は身分証明書だと思うことにする」
 ってつぶやいて。

 俺自身も、その時は音芽が運転を諦めたなら、“俺が”彼女をあちこち連れ回せる口実になって好都合かな?とか思ったんだ。
 でも……もしも音芽自身が本気で運転をマスターしたいって思ってんなら俺はいくらでも練習に付き合ってやるんだけどな。

 そんな風にも思ったんだけど、言わなきゃ伝わるはずがない――。

「……あの時はホントごめんなさい」

 しゅんとして謝る音芽おとめに、俺は人並みに乗れるようになるまで運転練習に付き合ってやっても構わないと告げることも、乗るのを諦めたなら俺がいくらでもお前の足になってやるとも言ってやることができなくて。

 ホント駄目な男だと思ったら、思わず自嘲気味な笑みが浮かんでしまった。

 音芽ともう少しちゃんと向き合えるようになれたなら……この気持ちを伝えられるようになるんだろうか。

***

「――で、音芽おとめ。このまま直帰でいいのか?」

 くだらない会話をしている間も、車はズンズン進み続けている。

 ふと、音芽はどこにも寄り道とかしたくないんだろうか?と思った俺は、何でもない風に彼女にそう問いかけた。

 音芽はそれに少し考えてから、「ん、大丈夫」と答える。
 その横顔が、何か言いたげに見えて、俺は「おや?」と思った。
 でも音芽が言わないことを、俺が食い下がるのも変な話だと思って気付かないふりをしたんだ。

 気が向いたら、音芽が自分のタイミングで何か切り出してくれる……よ、な?

 そう思っていたら、音芽が恐る恐ると言った感じで
「あ、あのね……温和はるまさ。アパートに着いたらほんの少しでいいから時間、もらえる、かな?」
 と切り出してきて。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...