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兄たちの制裁

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「あ、あのっ。奏芽かなめにい、ありがとう」
 音芽は奏芽に面と向かって礼が言いたかったらしく、きちんと兄の方を見つめてそう言った。
 俺の束縛から抜け出したがったのはこのためか。
 こう言うところがきっと、奏芽に堪らなく妹を愛しいと思わせるんだ。

 だからだろう。奏芽は危なっかしい妹のことが相当腹立たしかったとみえる。

 珍しく茶化したりすることなく真剣な様子で音芽に怒った顔を見せると、
「本当お前はバカだな! ホイホイ男について行って、なに簡単に泣かされてんだよ」
 そう叱り付けてから、妹の鼻をギュッとつまんだ。

 それを見た瞬間、何の躊躇ためらいもなく音芽おとめに手を伸ばせる奏芽かなめがうらやましい、とか思ってしまった俺は相当重症だな。

 奏芽は音芽と血を分けた実の兄なんだから、妹に何かすることに躊躇なんてするはずがない。

 俺と違って、音芽に対して抱いているのは純粋な兄心なのだから、そこに下心が入る余地はねぇし。

 だからこそ変に構えなくて済むだけだと頭ではわかっているくせに、心がなかなかそれを認めないのが困りものなんだ。

 俺は音芽に「バカ音芽」と口で言うことはいくらでも出来るくせに、奏芽みたいに彼女に触れるとなると、途端ハードルが上がる。

 幼い頃は、俺も奏芽かなめ同様、音芽にとってもう一人の兄でいられたはずだと自覚している。
 幼少期には俺も割と気安く音芽を撫でたり抱きしめたり出来ていたし。
 だが、今も奏芽のように気安く音芽にスキンシップがはかれるか?と言われたら答えはNOなんだ。

 何も考えずに音芽に触れるには、今の俺は彼女を異性として意識しすぎている。

 とはいえ、美しき兄妹愛きょうだいあいのはずの奏芽からの妹への愛の鞭は、かなり本気で手痛かったらしい。

 涙目になって奏芽を睨みつける音芽が不憫だ。でも潤んだ目をした彼女は同時にめちゃくちゃ可愛くも思えて。

 こんなに酷くされても、音芽はやはり奏芽の妹なんだ。
 幼い頃から奏芽のそう言う仕打ちに慣れっ子な音芽は、涙目のまま奏芽あにに問いかける。

「そういえばさっき、鶴見つるみ先生の耳元で何て言ったの?」

 音芽が口にしたそれは、俺も気になっていることだった。
 それで、思わず音芽につられるように「俺もそれ気になってた」と告げたら、奏芽がそんな俺たちを見て「ああ」とつぶやいた。
「あれね。別に大したことじゃないよ」
 そう前置きをしてから、
「犯すよ?って言っただけ」
 とか、とんでもない告白をしてくれる。

 しかも奏芽の過去のあれこれを知っている俺としては、本気で冗談に聞こえないからたちが悪いんだよな。
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