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兄たちの制裁

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 そこまで考えて、奏芽かなめ鶴見つるみを知らないから悠長に構えていられるんじゃないかと思い至った。

 対して、俺は鶴見を知っている。

 鶴見あの男が、嫌がる音芽を抱きしめた前科があることも。
 いつ何時音芽の魅力にあてられてタガが外れるか分かったもんじゃねぇだろ。
 心配だし嫌な予感しかしねぇわ。

 車にエンジンをかけながら、もう一度溜め息がこぼれた。

 ああ、俺のバカ。
 何で約束守れとか言っちまったかな。
 嫉妬心剥き出しで行くなよ!って言った方がマシだったぜ。

 音芽のこととなると、俺はどうも冷静になれなくなるらしい。

***

 散々車の中でうだうだ悶々とした挙句、結局俺に出来ることは現地で音芽おとめの到着を待つことだけだという結論に達して、俺はいま駐車場ここにいる。

 目当てのパンケーキ屋自体には駐車場が完備されていなかったので、商店街の中にいくつか点在する中から目的地に一番近いコインパーキングを選んで車を入れた。
 俺よりほんの少し先に着いていたらしい奏芽かなめも同じ考えだったようで、たまたまスペースが空いていたこともあって、俺は奏芽のすぐ隣に愛車を停めた。

 真剣な顔をしてスマホの画面を見つめていた奏芽かなめが、俺に気づいて目線だけで「乗れよ」と言ってきた。
 俺は迷うことなく奏芽の愛車――白のフォレスター――の後部座席に乗り込む。
「何でわざわざ後部そっちに乗るかね?」
 奏芽が後ろを振り返って問いかけてるのへ「動かしてもねぇ車内で男同士で横並びに乗るのも何か気持ち悪いだろ」と答える。
 奏芽は少し考えてから「ま、それもそっか。俺も助手席は女の子に取っておきたい派だしぃ~」とおちゃらける。

「パンケーキ屋の方……」
 確認しに行こうって言おうとしたら、奏芽が「まだ来てねぇよ」と即答してきて。店を覗いてきたんだろうか、とふと思うと同時にじりじりと不安が募り始める。

 だってそうだろ。何で俺たちより先に出たはずなのにあいつら、着いてねぇんだよ。

 鶴見つるみのやつ、音芽おとめが道に明るくないのをいいことに、遠回りして彼女を連れまわしているか……もしくは単純にどこかへ寄り道しているとしか考えられない。

 まさかホテルとかに連れ込まれたりはしてねぇとは思うけど……。

 最悪の事態ばかり考えてソワソワしてしまう。

「まぁ、落ち着けよハル。音芽はちゃんとこっちに向かってきてるから安心しろ」
 のほほんと言うのへ、苛立ちを隠しもせずに「何でそんなん分かんだよ?」って聞いたら、「音芽のスマホに追跡アプリ入ってんだよ」とかマジか!
「それ、音芽……」
「知らねーに決まってんじゃん。バレたら即行で消されるわ」
 って……それ、やっちゃダメなやつだって自覚はありそう、だな。

「あ。言っとくけど入れたの俺じゃねぇからな?」

 俺の冷ややかな視線に気付いたらしい奏芽かなめが、そう思われるのは心外だと眉根を寄せる。
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