33 / 168
目障りな男
2
しおりを挟む
視線の先、音芽が鶴見にフルフルと首を横に振るのが見える。
(お、音芽、偉いじゃねぇか)
鶴見に、まるで「これ以上は深追いするな」と線引きをするように軽く会釈をした音芽が、自分の席までの間に並ぶ、机や棚などを頼りに歩き始める。
俺はそれを、一見何食わぬ顔で見つめていたわけだが、本音を言うとすぐにでも手を貸してやりたくて。
けど――。
鶴見の申し出を断った音芽が、俺の手助けなら受け入れてくれるはずだという希望的観測と。
いや……でも、もしかしたら同じように断られるかもしれないという躊躇いがない交ぜになって、俺を席に貼り付ける。
そんな俺を横目に、よろよろと歩く音芽の後ろを鶴見が金魚のフンみたいに付き従って歩いているのが見えて、心ばかりどんどんささくれる。
(何で追い払わねぇんだよ、バカ音芽。睨むとか邪険にするとか……いくらでも出来んだろ)
実際には俺が「音芽が嫌がってんだろ、離れろよ」と言えたらいいだけなんだが、それが出来ないもどかしさで、怒りの矛先が音芽に向いてしまう。
段々彼女を見る目が険しくなって――気が付いたら睨むような鋭い目つきになっていた。
と、そこで戸惑った様子の音芽と一瞬目が合う。が、俺の視線に驚いたようにすぐに逸らされて。
(ああ、ホント、俺はバカだ)
音芽の今の視線、上手く受け止めたら助けに行く口実に出来たはずなのに。
ややして席までたどり着いた音芽が、
「あ、あのっ……荷物、有難う。……ございましたっ」
俺が無造作に音芽の机に置いておいたカバンを引き出しに仕舞いながら、恐る恐る礼を言ってくる。
完全にビビらせてるじゃねぇか、俺の馬鹿。
本当はものすごくお前のこと心配してるし、本音言うと今日は休ませたかったくらいなんだよ。
音芽の性格からして自分のクラスの子らを放置して休むとか。そういうのはできないと思ったから連れてきたけど……。
非現実的な願望を言わせてもらえばな。何なら俺も一緒に休んで付きっきりで面倒見たかったくらいだ。
「……鳥飼先生、今日は極力歩かないように過ごしてください。困った時は声かけてもらったら、俺がすぐサポートしに行きますので、遠慮なく言うように。朝礼で怪我のことと一緒にその旨話しますが、異論はないですね?」
諸々の思いが先走った結果、半ば命令するような口調になってしまった。
俺はつくづく口下手だと思う。
そんな俺に「はい」と従順に首肯する音芽。
おい音芽、少しは俺に盾ついたって構わねぇんだぞ?
とか思っていたら、突然鶴見がガタッという音を立てて立ち上がって、俺は何事かと思わされる。
「あ、あのっ。それだったら僕のことも遠慮なく頼ってください! すぐ駆け付けますのでっ!」
俺の提案に乗っかる形で、自分も!と名乗りを上げやがった鶴見に、俺は内心やられた、と思った。
奴のクラスも俺のクラスも、音芽の受け持ちクラスの教室を挟む形で両隣に位置している。
確かに条件的には俺と変わらないのだから、そう主張したくなるのもわかる。
分かるが――。
ふと音芽を見ると、俺が手伝いを持ちかけた時より嬉しそうに見えて。
それどころか。
「あ、あのっ、すごく助かりま――……」
にっこり笑って俺よりも明らかに鶴見寄りに礼を言おうとしやがった。
なぁ、バカ音芽。お前がどういう気持ちだろうと、さすがにコレ、許すわけにはいかねぇから。
公私混同だって承知で……学年主任権限発動させてもらうわ。
(お、音芽、偉いじゃねぇか)
鶴見に、まるで「これ以上は深追いするな」と線引きをするように軽く会釈をした音芽が、自分の席までの間に並ぶ、机や棚などを頼りに歩き始める。
俺はそれを、一見何食わぬ顔で見つめていたわけだが、本音を言うとすぐにでも手を貸してやりたくて。
けど――。
鶴見の申し出を断った音芽が、俺の手助けなら受け入れてくれるはずだという希望的観測と。
いや……でも、もしかしたら同じように断られるかもしれないという躊躇いがない交ぜになって、俺を席に貼り付ける。
そんな俺を横目に、よろよろと歩く音芽の後ろを鶴見が金魚のフンみたいに付き従って歩いているのが見えて、心ばかりどんどんささくれる。
(何で追い払わねぇんだよ、バカ音芽。睨むとか邪険にするとか……いくらでも出来んだろ)
実際には俺が「音芽が嫌がってんだろ、離れろよ」と言えたらいいだけなんだが、それが出来ないもどかしさで、怒りの矛先が音芽に向いてしまう。
段々彼女を見る目が険しくなって――気が付いたら睨むような鋭い目つきになっていた。
と、そこで戸惑った様子の音芽と一瞬目が合う。が、俺の視線に驚いたようにすぐに逸らされて。
(ああ、ホント、俺はバカだ)
音芽の今の視線、上手く受け止めたら助けに行く口実に出来たはずなのに。
ややして席までたどり着いた音芽が、
「あ、あのっ……荷物、有難う。……ございましたっ」
俺が無造作に音芽の机に置いておいたカバンを引き出しに仕舞いながら、恐る恐る礼を言ってくる。
完全にビビらせてるじゃねぇか、俺の馬鹿。
本当はものすごくお前のこと心配してるし、本音言うと今日は休ませたかったくらいなんだよ。
音芽の性格からして自分のクラスの子らを放置して休むとか。そういうのはできないと思ったから連れてきたけど……。
非現実的な願望を言わせてもらえばな。何なら俺も一緒に休んで付きっきりで面倒見たかったくらいだ。
「……鳥飼先生、今日は極力歩かないように過ごしてください。困った時は声かけてもらったら、俺がすぐサポートしに行きますので、遠慮なく言うように。朝礼で怪我のことと一緒にその旨話しますが、異論はないですね?」
諸々の思いが先走った結果、半ば命令するような口調になってしまった。
俺はつくづく口下手だと思う。
そんな俺に「はい」と従順に首肯する音芽。
おい音芽、少しは俺に盾ついたって構わねぇんだぞ?
とか思っていたら、突然鶴見がガタッという音を立てて立ち上がって、俺は何事かと思わされる。
「あ、あのっ。それだったら僕のことも遠慮なく頼ってください! すぐ駆け付けますのでっ!」
俺の提案に乗っかる形で、自分も!と名乗りを上げやがった鶴見に、俺は内心やられた、と思った。
奴のクラスも俺のクラスも、音芽の受け持ちクラスの教室を挟む形で両隣に位置している。
確かに条件的には俺と変わらないのだから、そう主張したくなるのもわかる。
分かるが――。
ふと音芽を見ると、俺が手伝いを持ちかけた時より嬉しそうに見えて。
それどころか。
「あ、あのっ、すごく助かりま――……」
にっこり笑って俺よりも明らかに鶴見寄りに礼を言おうとしやがった。
なぁ、バカ音芽。お前がどういう気持ちだろうと、さすがにコレ、許すわけにはいかねぇから。
公私混同だって承知で……学年主任権限発動させてもらうわ。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる