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可愛い妹

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 それなのに、いつからだろう。

 可愛い妹に、「お兄ちゃん」と呼ばれることが苦痛になって、段々邪険にしてしまうようになったのは。

「ハルにいあのね……」
 幼女から少女に成長した音芽おとめからそう声をかけられるたび、俺は自分の中にモヤモヤとしたドス黒いものが蓄積していくのを感じずにはいられなかった。

 ともすると、そんな風に呼んでくる音芽おとめを突き放したくなってしまうような――そんな衝動さえ湧き起こってくる。


「なぁ奏芽かなめ、これってどういうことだろう?」
 同じ女の子を妹に持つ同士として、奏芽かなめにそう問い掛けてみたけれど、奏芽かなめはニヤニヤするばかりで明確な答えを与えてはくれなくて。

「ハル。音芽おとめもいつまでもちっさくて可愛い女の子じゃないってぇーのに、お前が気づいたってことなんじゃねーの?」

 言いながら、「なぁ知ってるか? アイツ、胸ふくらんできてんだぜ?」って言われた瞬間、俺は思わず奏芽かなめの胸ぐらを掴んでいた。

「お、お前なっ、そういうことを言うのはっ」

 妹に対して何言ってるんだ、コイツ。

 そう思いながら……こんなに腹が立つのは、俺自身がそれを意識しているからに他ならないんじゃないかと気付かされた。

 っていうか……何に一番腹が立っているかって。


 ――奏芽かなめ、お前、音芽おとめそれ、見たのかよ?

***

 結局音芽おとめがどんどん女らしくなっていくのを間近で見ていたら、兄と呼ばれることを理不尽に感じる苛立ちが日々を追うごとに募っていった。
 かといって、兄であることをやめたなら、中学生になった今、小学生の音芽との接点がますますなくなってしまう気がして、それはそれで何だか落ち着かない。

 隣に住んでいるのだからそんな心配はないのだと思いたいのに、幼い頃のように気楽に音芽を抱きしめることが出来なくなった俺は、結果、音芽ロスで悶々としていた。

 頭の中には、いつも奏芽かなめが言った、「音芽アイツ、胸ふくらんできてんだぜ?」のセリフがグルグルして……小5の女の子相手にダメだろっていう妄想が膨らんで……。
 そのせいで兄と呼ばれることに、どこか淫靡な背徳感さえ感じるようになる始末。

 そんな思春期真っ盛りの初夏の夕暮れ時だ。
 あの事件が起こったのは。

 初めての中間テストが始まって、部活などもなく、いつもより早い時間に帰途についていた時。

 いつもなら奏芽かなめと一緒に帰るところを、「今日はこのと帰るからごめんな」とふられて、俺は一人で帰ることにした。

 先月見た彼女とは明らかに違う女子の肩を抱く奏芽かなめを見て、俺は密かに吐息を漏らしたのだ。
 あの彼女とは何週間――いや、何日持つだろうか。
 奏芽かなめ、小学高学年になったあたりから何だかやたらと女子にモテるようになった。恐らく幼い頃みたいに手当たり次第に女子たちを泣かせなくなったからだと思うけど……表立ってそういうことをしなくなっただけで、基本ドSは変わっていない。
 好きって言われたら余計そういうのセーブしないみたいだし、付き合わされる女の子はかなり大変みたいだ。
 そういう話、時々奏芽かなめから聞かされるけど、俺は話半分で聞き流すようにしている。あまりにディープすぎて、実際俺にはちと刺激が強すぎるから。
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