39 / 50
特典⑤ 『サワークリームオニオン』
2
しおりを挟む
「美味しいよ? 頼綱も食べてみない?」
花々里がそう聞いてくれたから、「ではひとつもらってみようかな?」と応えたら、途端、何故か花々里が俺に背を向けてしまう。
ん?
あげると言ったのは社交辞令で、実は惜しくなったとか?
花々里ならそれも有り得る気がして、「無理にくれようとしなくても大丈夫だよ」と言おうとしたら、「ガァガァ!」と言いながら花々里がこちらを振り返った。
俺はそれを見て思わず吹き出してしまう。
だって俺の可愛い花々里が、ポテトチップスを2枚、アヒルのクチバシに見立てて口に咥えていたんだからね。
「ねぇ花々里。それはキスの要領でおひとつどうぞ?っていうお誘いだと解釈したんで構わないかな?」
花々里の腰をぎゅっと引き寄せて、ポテトチップスを唇に挟んだ彼女の顔を間近で覗き込んだら、真っ赤な顔をしてフルフルと首を横に振る。
そうだよね。
奥手な花々里が、そこまで気が回っていないことなんて、もちろん俺だって先刻承知だよ。
キミはただ、俺を笑わせたい一心でこんなことをしたんだよね。
けど――。
俺は花々里のあごをそっと持ち上げると、彼女が食んだままのポテトチップスの一枚を唇で挟み取った。
そんな俺の動作を、花々里が瞳を見開いて固まったように見上げてくる。
――ああ、俺のフィアンセはなんて可愛いんだろう!
医科大学への編入試験がうまくいくまでは、不用意に手出しはしないと心に決めたんだがね。
これはなかなかに手強いな、と俺が思っていることになんて、花々里は微塵も気付いていないんだろうな。
程よい酸っぱさと、クリーミーな味、そうしてポテトの風味と玉ねぎの香りに包まれながら、俺は小さく吐息をついた。
そういえばこの前はとんがりコーンを指にはめて「はいどうぞ」ってされたっけ。
あの時にも、花々里の小さな指ごとそれを頂いて、彼女を真っ赤にさせたっけ。
年上として食べ物で遊んではいけないよ、と言わねばならないとか、そんなことが全部吹き飛んでしまうほど、花々里の取る行動のあれこれが突飛で愛らし過ぎて。
いつかお菓子なんかじゃなく、花々里自身をいただける日がくるのを、俺は心待ちにしているんだよ?
そんなことを言ったら、キミは一体どんな顔をするんだろうね?
END(2021/08/05)
花々里がそう聞いてくれたから、「ではひとつもらってみようかな?」と応えたら、途端、何故か花々里が俺に背を向けてしまう。
ん?
あげると言ったのは社交辞令で、実は惜しくなったとか?
花々里ならそれも有り得る気がして、「無理にくれようとしなくても大丈夫だよ」と言おうとしたら、「ガァガァ!」と言いながら花々里がこちらを振り返った。
俺はそれを見て思わず吹き出してしまう。
だって俺の可愛い花々里が、ポテトチップスを2枚、アヒルのクチバシに見立てて口に咥えていたんだからね。
「ねぇ花々里。それはキスの要領でおひとつどうぞ?っていうお誘いだと解釈したんで構わないかな?」
花々里の腰をぎゅっと引き寄せて、ポテトチップスを唇に挟んだ彼女の顔を間近で覗き込んだら、真っ赤な顔をしてフルフルと首を横に振る。
そうだよね。
奥手な花々里が、そこまで気が回っていないことなんて、もちろん俺だって先刻承知だよ。
キミはただ、俺を笑わせたい一心でこんなことをしたんだよね。
けど――。
俺は花々里のあごをそっと持ち上げると、彼女が食んだままのポテトチップスの一枚を唇で挟み取った。
そんな俺の動作を、花々里が瞳を見開いて固まったように見上げてくる。
――ああ、俺のフィアンセはなんて可愛いんだろう!
医科大学への編入試験がうまくいくまでは、不用意に手出しはしないと心に決めたんだがね。
これはなかなかに手強いな、と俺が思っていることになんて、花々里は微塵も気付いていないんだろうな。
程よい酸っぱさと、クリーミーな味、そうしてポテトの風味と玉ねぎの香りに包まれながら、俺は小さく吐息をついた。
そういえばこの前はとんがりコーンを指にはめて「はいどうぞ」ってされたっけ。
あの時にも、花々里の小さな指ごとそれを頂いて、彼女を真っ赤にさせたっけ。
年上として食べ物で遊んではいけないよ、と言わねばならないとか、そんなことが全部吹き飛んでしまうほど、花々里の取る行動のあれこれが突飛で愛らし過ぎて。
いつかお菓子なんかじゃなく、花々里自身をいただける日がくるのを、俺は心待ちにしているんだよ?
そんなことを言ったら、キミは一体どんな顔をするんだろうね?
END(2021/08/05)
1
あなたにおすすめの小説
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
冷たい外科医の心を溶かしたのは
みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。
《あらすじ》
都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。
アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。
ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。
元々ベリカに掲載していました。
昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる