上 下
278 / 317
■特典①『羽の生えたうさぎ』

7

しおりを挟む
 前菜――鶏むね肉のテリーヌ――とともに運ばれてきた、シャンメリーとシャンパン。

 店員さんギャルソンによって、それぞれのボトルからグラスに注がれた感じは、どちらも一緒に見えた。


 やや黄色みの強い琥珀色シャンパンゴールドのキラキラした液体に、小さな気泡がぷつぷつと上がる。


 頼綱よりつなと軽くグラスを合わせて乾杯をして、各々ひとくち口に含んで――。

 うん、これこれ。
 この甘くてシュワァ~っと弾ける?お味。

 美味しいっ。


 思わず口元が緩んでしまいそうになるのを必死にこらえてから頼綱に「あの……」と声をかける。


 約束のにおいを……。


 私の期待に満ちた目を見てクスッと笑った頼綱から、「どうぞ」とグラスを差し出されて、私は恐る恐る鼻を近付けた。

 そのくせ思いっきりスーッとにおいを吸い込んで――。



「――あ、れれれ……!?」


***


 ありゃ?
 ここ……どこ?


 とっても高い天井に、羽のついたウサギがキラキラと舞い飛んでいて。


「シャン、デリア?」


 ポツリと小声でつぶやいたら、「目、覚めたかい?」って顔を覗き込まれた。


「ひょりつな!?」

 ひゃ!という悲鳴と頼綱よりつなが混ざって変なことになってしまった。


 名前の呼び方に関しては結構厳しそうなイメージの頼綱なのに、何故か今回はスルーしてくれて。


 そればかりか、
「身体、起こせるかな?」
 っていたわるように聞いてくれるの。


 何だろう、これ。

 もしかして……目が覚めたつもりでいるけれど、私、まだ夢の中にいるのかしら?

「シャンパンのにおいを嗅いだだけで倒れるとか……一体誰が想像できる? キミは鼻からも飲み食いできる特殊体質か何かなのかい?」

 水の入ったグラスを差し出されて、ベッドの上にぼんやりした頭で座ったまま、それを受け取って。

 促されるままにひと口飲んでから「え?」と思う。


頼綱よりつな、今なんて……?」


「キミはシャンパンの香りを嗅いだ途端倒れたんだよ。覚えてない?」


 うそ……。

 全然覚えてないっ!



「頼綱、ごめんっ! ご飯、食べ損ねちゃったよね!?」


 あーん、残念!と眉根を寄せて言ったら、瞳を見開かれてしまった。


「………花々里かがり。気にするのはそこなのかい?」


 溜め息混じりに言われて、
「知らない間にホテルの部屋に連れ込まれて、ベッドで目が覚めたんだよ、キミは。――気を失っている間に色々されてるかもしれない、とか思わないの?」

 真剣な目で見つめられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。

すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!? 「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」 (こんなの・・・初めてっ・・!) ぐずぐずに溶かされる夜。 焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。 「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」 「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」 何度登りつめても終わらない。 終わるのは・・・私が気を失う時だった。 ーーーーーーーーーー 「・・・赤ちゃん・・?」 「堕ろすよな?」 「私は産みたい。」 「医者として許可はできない・・!」 食い違う想い。    「でも・・・」 ※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。 ※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 それでは、お楽しみください。 【初回完結日2020.05.25】 【修正開始2023.05.08】

ただいま冷徹上司を調・教・中!

伊吹美香
恋愛
同期から男を寝取られ棄てられた崖っぷちOL 久瀬千尋(くぜちひろ)28歳    × 容姿端麗で仕事もでき一目置かれる恋愛下手課長 平嶋凱莉(ひらしまかいり)35歳 二人はひょんなことから(仮)恋人になることに。 今まで知らなかった素顔を知るたびに、二人の関係は近くなる。 意地と恥から始まった(仮)恋人は(本)恋人になれるのか?

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

極道に大切に飼われた、お姫様

真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。

上司と部下の溺愛事情。

桐嶋いろは
恋愛
ただなんとなく付き合っていた彼氏とのセックスは苦痛の時間だった。 そんな彼氏の浮気を目の前で目撃した主人公の琴音。 おまけに「マグロ」というレッテルも貼られてしまいやけ酒をした夜に目覚めたのはラブホテル。 隣に眠っているのは・・・・ 生まれて初めての溺愛に心がとろける物語。 2019・10月一部ストーリーを編集しています。

溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華
恋愛
社長御曹司と噂されている超絶イケメン 平国 蓮 × 干物系女子と化している蓮の話相手 赤崎 美織 部署は違うが同じ会社で働いている二人。会社では接点がなく会うことはほとんどない。しかし偶然だけど美織と蓮は同じマンションの隣同士に住んでいた。蓮に誘われて二人は一緒にご飯を食べながら話をするようになり、蓮からある意外な悩み相談をされる。 顔良し、性格良し、誰からも慕われるそんな完璧男子の蓮の悩みとは……!?

処理中です...