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■特典①『羽の生えたうさぎ』
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***
「あ、あのっ」
スーツとオールバックでビシッと決めた――と言っても外出時の彼はいつもこんななのでいつも通りといえばそれまでなんだけど――頼綱に縋り付くようにして歩く私は、きっと側から見たら、さながら大木にしがみつくコアラか何かみたいだと思う。
いや、コアラなんて可愛い生き物の代名詞みたいなのはおこがましいから、セミとかカナブンとかかもしれないっ。
いずれにしても何だかすっごく恥ずかしい。
せめてもう少しゆっくり歩いて欲しいと声を掛けたら「ああ、ごめん。早かったね」ってにっこりされた。
その笑顔に思わず見惚れてしまうとか!
くっついてると嫌でもあのいい香り――アランドロンのサムライ47とかいう香水らしいですよ!?――もしてくるし、ドキドキするしかないじゃないっ!
あー、頼綱ごときにこんな心乱されるとか!!
ホント、悔しいっ!
***
「目的のお店はここの20階にあるからね」
口惜しく思っていても、頼綱にそう言われた途端、口の中にじゅわりと生唾がわいてきて、条件反射ってホント怖いって思ってしまう。
何でこんなにこの人、私の〝胃袋〟を掴むのがうまいんだろう!
***
エレベーターで目的の階に上がると、扉が開くと同時、頼綱に腕を差し出された。
昇降機の中で、私がしれっと頼綱から離れて中にあるバーに掴まったこと、しっかり気付かれていたみたい。
「転ぶといけないからね」
もっともらしくそう言われてもなお、躊躇っていた手を半ば強引に取られてゆっくりと引かれる。
そのままゆるゆると頼綱と手を繋いだままエレベーターを降りると、右手奥のお店に向けて歩き出した。
でもっ!
足元が柔らかい絨毯になっているせいで、ヒールが取られてホテル外の石畳や、建物内に入ってからの石床の上に敷かれた薄めのレッドカーペットを進んだ時より遥かに歩きにくいの!
「ほら、遠慮せず俺の腕にお掴まりよ」
普通なら「俺の腕に掴まれよ」なんだろうけど、こういう変わった言い回しが違和感なく使えちゃうところが頼綱なんだよね、とか関係ないことを思いながら彼を見上げた。
と、またしてもすぐ腕を回してこない私に焦れたのか、繋いでいた手を無理矢理頼綱の腕に絡めるように巻きつけられてしまう。
思わず「あ、あのっ」と言ってみたものの、離すのは心許なく思えてしまって。
それがまた何だか頼綱の思惑通りに思えて悔しくて恥ずかしくて。
「やっぱり……」
唇を尖らせて小さくつぶやいたら、めざとく聞きつけられた。
「ん? 何かね?」
余裕の態度で私を見下ろしてくる頼綱に、私は不本意ながらもギュッとしがみついたまま言うの。
「履き慣れた靴で来れば良かった!」
そうなのよ!
ワンピースはともかくとして、馬鹿正直にパンプスまで渡されたものを履かなくてもきっと!
手持ちのローファーやバレエジュースやチャンキーヒールになったかかと低めのパンプスだって、このワンピースには合っていたはずなの!
私、何でそれ、気付けなかったんだろう!
あーん、してやられた気分ですっ!
「あ、あのっ」
スーツとオールバックでビシッと決めた――と言っても外出時の彼はいつもこんななのでいつも通りといえばそれまでなんだけど――頼綱に縋り付くようにして歩く私は、きっと側から見たら、さながら大木にしがみつくコアラか何かみたいだと思う。
いや、コアラなんて可愛い生き物の代名詞みたいなのはおこがましいから、セミとかカナブンとかかもしれないっ。
いずれにしても何だかすっごく恥ずかしい。
せめてもう少しゆっくり歩いて欲しいと声を掛けたら「ああ、ごめん。早かったね」ってにっこりされた。
その笑顔に思わず見惚れてしまうとか!
くっついてると嫌でもあのいい香り――アランドロンのサムライ47とかいう香水らしいですよ!?――もしてくるし、ドキドキするしかないじゃないっ!
あー、頼綱ごときにこんな心乱されるとか!!
ホント、悔しいっ!
***
「目的のお店はここの20階にあるからね」
口惜しく思っていても、頼綱にそう言われた途端、口の中にじゅわりと生唾がわいてきて、条件反射ってホント怖いって思ってしまう。
何でこんなにこの人、私の〝胃袋〟を掴むのがうまいんだろう!
***
エレベーターで目的の階に上がると、扉が開くと同時、頼綱に腕を差し出された。
昇降機の中で、私がしれっと頼綱から離れて中にあるバーに掴まったこと、しっかり気付かれていたみたい。
「転ぶといけないからね」
もっともらしくそう言われてもなお、躊躇っていた手を半ば強引に取られてゆっくりと引かれる。
そのままゆるゆると頼綱と手を繋いだままエレベーターを降りると、右手奥のお店に向けて歩き出した。
でもっ!
足元が柔らかい絨毯になっているせいで、ヒールが取られてホテル外の石畳や、建物内に入ってからの石床の上に敷かれた薄めのレッドカーペットを進んだ時より遥かに歩きにくいの!
「ほら、遠慮せず俺の腕にお掴まりよ」
普通なら「俺の腕に掴まれよ」なんだろうけど、こういう変わった言い回しが違和感なく使えちゃうところが頼綱なんだよね、とか関係ないことを思いながら彼を見上げた。
と、またしてもすぐ腕を回してこない私に焦れたのか、繋いでいた手を無理矢理頼綱の腕に絡めるように巻きつけられてしまう。
思わず「あ、あのっ」と言ってみたものの、離すのは心許なく思えてしまって。
それがまた何だか頼綱の思惑通りに思えて悔しくて恥ずかしくて。
「やっぱり……」
唇を尖らせて小さくつぶやいたら、めざとく聞きつけられた。
「ん? 何かね?」
余裕の態度で私を見下ろしてくる頼綱に、私は不本意ながらもギュッとしがみついたまま言うの。
「履き慣れた靴で来れば良かった!」
そうなのよ!
ワンピースはともかくとして、馬鹿正直にパンプスまで渡されたものを履かなくてもきっと!
手持ちのローファーやバレエジュースやチャンキーヒールになったかかと低めのパンプスだって、このワンピースには合っていたはずなの!
私、何でそれ、気付けなかったんだろう!
あーん、してやられた気分ですっ!
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