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Epilogue

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「ほらほら、坊っちゃま。おむすびこれの必要性がお分かり頂けたのでしたら、さっさとそこのうなぎをこっちに取ってくださいまし」

 私と頼綱よりつなの不毛な会話を、八千代さんがピシッ!とぶった斬って。

 頼綱は彼女の声に押されるように、慌ててトースターに手を伸ばして。
 途端「あつっ!」と手を引っ込めた。

 庫内でトースタープレートがカタン!と揺れて、アルミホイルに包まれた鰻が、中でジューッと音を立てた。

 ――きゃー、プレートごと落っこちなくて良かった!

「もぉー、頼綱坊っちゃまはそちらに避けておいてくださいませ。わたくしがやりますので」

 心臓バクバクでそう思っていたら、八千代さんが鍋つかみを片手にオーブンから熱々ホクホクの鰻を取り出して鍋敷なべしきの上に置く。

 その辺りでやっと痛みが引いてきた私は、スクッと背筋を伸ばすと、八千代さんの横に立った。

 熱々の鰻をアルミホイルごとそっとまな板に移して包みを解くと、火傷しないよう気を付けながら1.5センチ幅に切って、添付されていたタレをたっぷり掛ける。

 ――んー、美味しそうっ!

 手についたタレを舐めたら、すっごく愛しい味がして、生唾がじわりと口の中にあふれた。


 あ、やばいっ。
 また

 振り返りざま、椅子の背もたれをギュッと握って手指に力を込めながら、

「よ、りつ、なっ、そ……このラッ、プ、切っ、てくれる?」

 私たちの迫力に押されて呆然と立ち尽くす頼綱よりつなに、痛みでフルフル震える指でラップの細長い箱を指し示したら、頼綱が慌てて動いて。

 そうしてラップの箱を手に、「どっ、どのくらい?」とか。

 ――頼綱さん、まさかそれ、切る長さを聞いていらっしゃいます?

 一口サイズの手毬てまりおむすびを作りたいので、「20セ、ンチくら、いっ」と声を絞り出すように言ったら、頼綱ってば、私の様子にオロオロしてか、今度はなかなかラップの端が掴めなくてするの。


「お貸しくださいまし」

 とうとう見かねたらしい八千代さんに、ラップを箱ごと奪われてしまった。


 結局、一口サイズのうなぎ乗せ手毬てまりおむすびは、痛みの合間を縫うようにして頑張った私と、始終テキパキと動く八千代さん2人の共同作業で完成してしまいました。


頼綱よりつな坊っちゃま、これからは父親になられるんですから、お家でも花々里かがりさんを支えられるよう、もう少し家事も覚えてくださいましね?」

 ――わたくしも、いつまで坊っちゃまのお世話を焼けるか分からないのでございますから。

 ぽつんと付け加えるように落とされた言葉に、私は胸がキューッと切なくなった。

 と、同時。

「イタタタ……」

 またしてもお腹が痛くなって、机に手を付いて立ち止まる。

 あ、やばい。
 陣痛の間隔、10分切ってるかも?

 八千代さんに指示されて、お弁当箱につめた手毬てまりおむすびを、風呂敷で包んでいる頼綱を横目に……。

「よ、り、綱っ……お願っ、そろそろ、びょぉ……い、んっ」

 ギュッと手に力を入れながら、涙目で彼を振り仰いだ。


 頼綱はそんな私をサッとお姫様抱っこの要領で抱き上げると、今包んだばかりのおむすびを手に、「行ってきます」と八千代さんに声をかけた。


「八、千代さっ、お母さんが戻っ、てきたら」

 あいにく今日は外せない仕事があるとかで、私を気にしつつも出掛けてしまったお母さんの事をソワソワと心配したら、「お任せくださいまし!」とガッツポーズで見送られて。



 頼綱の車のトランクルームには、今日の日に備えて、すでに入院道具一式が積み込んである。



「ね、頼綱。おむすび、車の中でひとつ……つまんでも、いい……?」

 頼綱の腕の中、さっきまでの役立たずっぷりが嘘みたいに凛々しいまでに頼もしい彼の顔を見上げてそう問いかけたら、頼綱が一瞬瞳を見開いてから、すごく嬉しそうににっこり笑って「もちろんだよ」とうなずいてくれた。


 予定通り、美味しい美味しい鰻のおにぎりいくさめしとともに、御神本みきもと花々里かがり、いよいよ一世一代の大仕事に出陣して参ります!




   END(2020/08/14~2021/08/19)
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