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私の本心、分かってますか?
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「こ、子どっ……!?」
頼綱の言動全てに反応するみたいに身体がぶわりと熱くなって、私はそれを誤魔化すみたいにコクコクとうなずいた。
「……やっぱり怖い?」
聞かれて、そんなの当たり前だよぅ、とギュッと頼綱にしがみついたら、
「そうか。――けど、ごめんね。さすがにもうこれ以上は待てそうにない。俺が全部リードするし、出来るだけ優しくするから……。だからお願い。花々里の全てを僕に奪わせて?」
どこか懇願するみたいな口調で頼綱に請われて、私はそれだけで恥ずかしさに消え入りそうになる。
彼のプロポーズを受けた後、一向に手を出そうとしてくれない頼綱に、女性として見られていない気がして不安になったことがある。
結局は私が合格するまでは、という頼綱なりの願掛けだと分かったんだけど――。
いざこんな風に障害が取り払われて、伴侶として全力で求められると、どうしていいか分からなくなるとか……我ながら情けないっ。
恐る恐る頼綱を見上げて、往生際悪く「ホントに……するの?」と躊躇いがちに尋ねたら、頼綱が一瞬驚いたように瞳を見開いた。
「さっきからそう打診しているつもりだったんだがね。――もしかして通じてなかったの?」
クスッと笑われて、私はほんの少し肩の力が抜ける。
「だって……改めてそんな風に言われたらっ。すごくすごく恥ずかしくてたまらないんだものっ! わ、笑うことないじゃないっ」
私だけガチガチに緊張しているみたいなのが悔しくて、笑われてしまったことを拗ねて見せたら、頼綱に「揶揄ったつもりじゃなかったんだがね。つい浮かれ過ぎていたみたいだ。――もしそう取れたんだとしたら、すまない」って素直に謝られた。
「俺は至極真剣に心の底から花々里のことを欲しているんだけど……どうやったらそれを伝えられるかな?」
そう言ってしばし考え込むような間があって。
不意に耳元へ甘くささやくような言葉が落ちてくる。
「そうだ。花々里。最後までちゃんと出来たら……お祝いに鰻を食べに行かないか?」
言われて、私は「鰻!?」と目をキラキラさせて。
元より合格祝いはそれだと、指輪を見に行った夜、車内で約束したことを頼綱が忘れているはずがない。
それなのにわざわざ「お祝い」と言う言葉を試験以外にも掛けたような、こんな言い方。
(どうして?)
そこまで考えて、思い至った。
私と頼綱にとって、鰻は再会後、初めてしたデートで食べた思い出の食材で。
私と頼綱のファーストキスの味を彷彿とさせる特別な食べ物だからだ、って。
2人でその先へ進む覚悟をバックアップするのに、鰻ほどピッタリの食品はないと思う。
頼綱、きっとそれらを踏まえて言ってきたんだ。
「その代わり、今夜は俺にとことん付き合って欲しい。そろそろ……ずっとお預けを食らわされてきた僕にもご馳走を食べせて? ――頑張れるかい?」
大好物の鰻を鼻先にぶら下げられて、ダメだなんて言えるわけない。
それに――。
そんなご褒美なんてなくっても、私は元よりそのつもりだよ?
この日を待ち望んでいたのが自分だけだなんて思わないで欲しい。
ね、頼綱。そんな私の本心あれこれ、ちゃんと分かってますか?
頼綱の言動全てに反応するみたいに身体がぶわりと熱くなって、私はそれを誤魔化すみたいにコクコクとうなずいた。
「……やっぱり怖い?」
聞かれて、そんなの当たり前だよぅ、とギュッと頼綱にしがみついたら、
「そうか。――けど、ごめんね。さすがにもうこれ以上は待てそうにない。俺が全部リードするし、出来るだけ優しくするから……。だからお願い。花々里の全てを僕に奪わせて?」
どこか懇願するみたいな口調で頼綱に請われて、私はそれだけで恥ずかしさに消え入りそうになる。
彼のプロポーズを受けた後、一向に手を出そうとしてくれない頼綱に、女性として見られていない気がして不安になったことがある。
結局は私が合格するまでは、という頼綱なりの願掛けだと分かったんだけど――。
いざこんな風に障害が取り払われて、伴侶として全力で求められると、どうしていいか分からなくなるとか……我ながら情けないっ。
恐る恐る頼綱を見上げて、往生際悪く「ホントに……するの?」と躊躇いがちに尋ねたら、頼綱が一瞬驚いたように瞳を見開いた。
「さっきからそう打診しているつもりだったんだがね。――もしかして通じてなかったの?」
クスッと笑われて、私はほんの少し肩の力が抜ける。
「だって……改めてそんな風に言われたらっ。すごくすごく恥ずかしくてたまらないんだものっ! わ、笑うことないじゃないっ」
私だけガチガチに緊張しているみたいなのが悔しくて、笑われてしまったことを拗ねて見せたら、頼綱に「揶揄ったつもりじゃなかったんだがね。つい浮かれ過ぎていたみたいだ。――もしそう取れたんだとしたら、すまない」って素直に謝られた。
「俺は至極真剣に心の底から花々里のことを欲しているんだけど……どうやったらそれを伝えられるかな?」
そう言ってしばし考え込むような間があって。
不意に耳元へ甘くささやくような言葉が落ちてくる。
「そうだ。花々里。最後までちゃんと出来たら……お祝いに鰻を食べに行かないか?」
言われて、私は「鰻!?」と目をキラキラさせて。
元より合格祝いはそれだと、指輪を見に行った夜、車内で約束したことを頼綱が忘れているはずがない。
それなのにわざわざ「お祝い」と言う言葉を試験以外にも掛けたような、こんな言い方。
(どうして?)
そこまで考えて、思い至った。
私と頼綱にとって、鰻は再会後、初めてしたデートで食べた思い出の食材で。
私と頼綱のファーストキスの味を彷彿とさせる特別な食べ物だからだ、って。
2人でその先へ進む覚悟をバックアップするのに、鰻ほどピッタリの食品はないと思う。
頼綱、きっとそれらを踏まえて言ってきたんだ。
「その代わり、今夜は俺にとことん付き合って欲しい。そろそろ……ずっとお預けを食らわされてきた僕にもご馳走を食べせて? ――頑張れるかい?」
大好物の鰻を鼻先にぶら下げられて、ダメだなんて言えるわけない。
それに――。
そんなご褒美なんてなくっても、私は元よりそのつもりだよ?
この日を待ち望んでいたのが自分だけだなんて思わないで欲しい。
ね、頼綱。そんな私の本心あれこれ、ちゃんと分かってますか?
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