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不安だから付けさせて?

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「今朝八千代さんにも報告させてもらった通り、花々里かがりがやっと、俺のプロポーズを受けてくれたんだ」

 そこで、ロールケーキに手を伸ばした私をチラリと見やると「そうだよね?」と同意を求められて。

 私はビクッと身体を震わせて「……はい」と小声で答えた。

 何これ、何これ。
 改めてこんなふうに確認されたら、物凄く恥ずかしいんですけどっ。

 ロールケーキだって食べづらいじゃないっ!

 実はそこが1番不満な気もするけれど、笑われそうなので絶対に言わない。


「おめでとうございます、坊っちゃま、花々里さん」

 八千代さんが目尻の皺を一層深くして感極まった様子で涙を拭われるのを横目に、私まで思わずウルッときて。

 もうこれ、現状のせいで未だに口に入れられないロールケーキへの思いが募りすぎた涙なのか、はたまた普通にこの雰囲気に呑まれてウルルンときてしまったのか、分かんないです。


「それでね、花々里かがり、すごく性急な話なんだけど……この週末、一緒にお母様の所へご報告がてらお見舞いに行かないか?」

 しくも私、今日布団の中でそう出来たらいいなって考えてた。

 だけど「わーい」って飛び付いたらみっともないかな?

 ソワソワしながら頼綱と八千代さんを見比べたら、2人とも期待に満ちた目で私を見つめていて。

 私は恥ずかしくなって声が出せないままにコクコクとうなずいた。


「そこで村陰むらかげさんに結婚のお許しをいただけたら、証人欄の一方は八千代さんにサインをしていただきたいんです。……もう一方の証人欄は――」

 そこで頼綱よりつなが私に「どうしたい?」と聞いてきて……。
 私はロールケーキから視線を外さないままに少し考えてから、「頼綱よりつなのお父様に埋めていただきたい」と話した。
 再婚なさっているというお母様は無理でも、頼綱のことを――金銭的な部分が主とはいえ――育ててきたお父様には認めていただきたい。

 お父様の財力が全てとは言わないけれど、頼綱が私に惜しみなく美味しいものを食べさせてくれるのは、きっとお父様からのお力添えの賜物たまものでもあると思うから。感謝しないと、って思った。


「――でもそれじゃあ村陰むらかげさんが」

 当然だよね。頼綱からそう心配された私は、「うちのお母さんは同意書にサインしなきゃいけないから大丈夫だよ」と言ってみる。

 一応そこに関しては、お母さんの意見を尊重するという前提付きで、「花々里かがりがそう言うならそうしようか」と頼綱も言ってくれて。

 お母さんの性格からすると、きっと呆気らかんと「大丈夫よ」って言ってくれるだろうななんて思いつつ、私は頼綱の言葉にうなずいた。

 そもそも大きな声では言えないけれど頼綱、お母さんの所に行く時、きっとこのロールケーキを手土産にするんでしょう?
 お母さん、それだけできっとめちゃくちゃご機嫌になるだろうし、早く食べたい一心で、きっと何でもかんでも「うんうん」ってうなずいちゃうと思うの。

 あの人、私以上に食い意地張ってるから。

 あわよくば私もご相伴にあずかれるかも知れない?などと思いつつ、お母さんの動きを予想してみたり。
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