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この味、覚えてる!

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 私の言葉に、立ち上がって箱を手にこちらを振り返った頼綱よりつなに、「中身が気になって眠れないの」って眉根を寄せて畳み掛けたら、瞳を見開かれた。

「まったくキミって子は……」

 溜め息まじりでつぶやかれた言葉は、でもその態度とは裏腹に、とても優しい声音で。


「食べたら眠れるかい?」

 と箱のフタを取る。

 布団に座った状態では、立っている頼綱の手元は見えなくて。

 私はコクコクとうなずいた。
 そうしてみて、頭が痛まないことにホッとして……薬が効いてきたんだって思う。



「昨夜甘い匂いがしてただろう? これだよ」

 カサッという乾いた音とともに、頼綱よりつなの方へ差し出した手のひらに、小さな包みが載せられて。

「これ……」

 クッキングペーパーを小さく切ったもので、飴玉を包むみたいに紙縒こよられたそれは、中に茶色いものが包まれていた。

「八千代さんの手作りキャラメル。市販のものなんて比べ物にならないくらい絶品だよ。そう言えばキミも幼い頃――」

 そこまで言って、ハッとしたように口をつぐんだ頼綱に、「そう言えば頼綱は私と会うの、アパート前で会ったあの日が初めてじゃなかったようなこと、言ってたっけ……」と思う。


「頼綱にも1個あげるね。食べていいよ?」

 八千代さんは頼綱もこれ、好きだと言っていた。それを、本人の今の口ぶりからも存分に実感した私は、箱を手にしたままの頼綱を振り仰いで小首を傾げた。

 1個だけと限定したものの、頼綱には私、不思議と自分が手に入れた美味しいものをお裾分けしてもいいかなって思えるの。

 こんな風に思える相手なんて、今までお母さんぐらいしかいなかったのに。

 それってつまりはお母さんの立ち位置に近いところ――私のふところの中?――に頼綱がいるということなんだろうな、とふと思って。

 寛道ひろみちに、自分は花々里わたしから食べ物をもらったことがないのに、頼綱アイツだけズルイみたいに言われた時には「それってそんなに重要なこと?」って思ったけれど、案外凄く大事なことかも知れない。
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