上 下
195 / 317
離さない

4

しおりを挟む
***

「お弁当とおやつはわたくしが用意しておきましたので、これを持って行ってらっしゃいませ」

 時折痛む頭に眉をしかめながらもバタバタと朝食を済ませて身支度みじたくを整える。

 いつもならお代わりをするご飯が一膳しか食べられなかったのは、時折思い出したようにズキン!と痛む頭のせいかな。

 今朝はお弁当を作り損ねてしまったから、学食かどこかで何か調達するしかない?と思いながら廊下に出たところで、八千代さんが和柄の小さな風呂敷包みを手渡してくださった。

 これが、八千代さんが先程おっしゃった「手立てを講じる」の一端なのかしらと思って。

「あ、あのっ」

 だけど本来ならば私も八千代さんと一緒に朝食作りをしないといけない立場だったのに……昼食までっ!と思ったら恐縮してしまう。

 寝坊した挙句、やるべきお仕事をすっぽかしたばかりか、本来ならば私が自分で何とかすべきお弁当まで準備して頂いて……。
 しかも今、サラリとおやつまで入っているようなこと、おっしゃいませんでしたか!?

 至れり尽くせり過ぎて、素直に甘えていいものか戸惑ってしまう。

 受け取ったばかりの可愛らしい包みを見て、思わず眉根が寄って。

 本当下っ端の新人お手伝いさんのくせに、何やってるのよ私!ってただただ情けなさが募った。


 無意識に溜め息を落とした私に、「花々里かがりさん、わたくし頼綱よりつな坊っちゃまからお聞きしたんでございますよ? 昨晩、とうとう坊っちゃまからのプロポーズをお受けになられたんでございましょう!? おめでとうございます!」とにっこりされる。

 だから、坊っちゃまの許嫁いいなずけである花々里さんあなたに対して、わたくしがアレコレお世話を焼くのは当たり前のことなのでございます、と言いたげな八千代さんに、私は瞳を見開いた。

「で、でもっ」

 頼綱とは今後のことについてまだ何も話していないし、八千代さんにそこまでして頂く義理はまだ私にはないのですっ。


 そう言い募ろうとしたところで、頼綱が私の背後にやってきて。

「花々里。さっき、八千代さんからも頼まれたし、今日は俺が愛するキミを学校まで送っていくからね?」

 とか言って、話をややこしくするの。

 空気を読まないのほほんとした頼綱よりつなの口調に、思わず責めるような気持ちを込めて、振り返りざま彼を睨みつけたら、「ん? どうしたの? 八千代さんと何かあったかね?」とか!

 八千代さんと、というより貴方と!なんですけどっ。

 そんな思いで、「何で私に無断で八千代さんに話しちゃったんですかっ」と頼綱に詰め寄ったら、「まずいことなんて何ひとつないと思うけど?」とキョトンとされた。

 まずいと言うより、私の気持ちの整理の問題なのに!と思うこちらの心情なんて知らぬげに、澄ました顔で頼綱が続ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華
恋愛
社長御曹司と噂されている超絶イケメン 平国 蓮 × 干物系女子と化している蓮の話相手 赤崎 美織 部署は違うが同じ会社で働いている二人。会社では接点がなく会うことはほとんどない。しかし偶然だけど美織と蓮は同じマンションの隣同士に住んでいた。蓮に誘われて二人は一緒にご飯を食べながら話をするようになり、蓮からある意外な悩み相談をされる。 顔良し、性格良し、誰からも慕われるそんな完璧男子の蓮の悩みとは……!?

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。 職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。 私はこんな人と絶対に関わりたくない! 独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。 それは……『Dの男』 あの男と真逆の、未経験の人。 少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。 私が探しているのはあなたじゃない。 私は誰かの『唯一』になりたいの……。

ただいま冷徹上司を調・教・中!

伊吹美香
恋愛
同期から男を寝取られ棄てられた崖っぷちOL 久瀬千尋(くぜちひろ)28歳    × 容姿端麗で仕事もでき一目置かれる恋愛下手課長 平嶋凱莉(ひらしまかいり)35歳 二人はひょんなことから(仮)恋人になることに。 今まで知らなかった素顔を知るたびに、二人の関係は近くなる。 意地と恥から始まった(仮)恋人は(本)恋人になれるのか?

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...