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わーん、ごめんなさいっ!
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御神本邸の敷地は広い。
頼綱が私を抱き上げたまま器用に車のドアを閉める気配を感じながら、このままの状態で庭を突っ切るのは大変なんじゃないかと思い至った。
だって私、食いしん坊だからそれなりに重いと思うし!
「わ、私自分で――」
歩けるって言おうと思ったら、「絆創膏を剥がしてしまったのは俺だから」ってすぐ耳元で頼綱の優しい声。
彼の身に纏う香水の香りと、大好きな低音ボイスにもっと抗議しなきゃダメなのに、頭の芯がぼぉっとして鈍ってしまう。
「花々里はもう少し太ってもいいね」
そんな私を抱いて歩きながら、頼綱がポツンとつぶやいて。
その言葉にハッと我に返ると、私は「滅相もございません!」と、頼綱に擦り付けたままの首をふるふると振った。
だって私、小町ちゃんに比べたら二の腕とかめちゃポヨポヨしてるもん!
「くすぐったいよ」
途端クスクスと笑われて「ごめんなさいっ」と少し距離をあけたら、
「離れないで? 落ちたら大変だからね」
少しだけ身体を抱き直されて、私はソワソワともう1度頼綱にギュッと寄り添うようにしがみついた。
と、玄関まであと少し、というところで、
「花々里……、甘くていい匂いがするね」
どこかうっとりとした声音で頼綱からそう言われて……「ん? 何が?」と思う。
でも、彼の言葉に鼻をヒクヒクさせてみれば、家の方から甘い香りがしてくるのに気が付いて、「八千代さん、お菓子作ったのかなっ?」って思わず声を弾ませた。
にっこり笑って「プリンかなっ? カラメルソースみたいな匂いがするよね!?」ってワクワクしながら頼綱を見上げたら、頼綱ってば「いや、俺が言ったのは花々里の……」と、何かを言いかけるの。
その言葉に「ん? 私の?」って小首を傾げたら、「いや、いい」ってやめちゃって。
変な頼綱。
さては私より先に美味しい匂いに気付いたのが恥ずかしかったのかな?
もう、可愛い所があるんだからっ!
頼綱はそんなに筋肉質には見えないのに、やはり男性だ。
私を抱く二の腕にも、身体を預けた胸板からも、着痩せするけれどしっかりと付いた筋肉の存在を感じさせられて。
甘い香りに負けないくらいの頼綱のいい匂いに包まれて、私はソワソワしたまま玄関をくぐった。
玄関先で頼綱から降ろされた私は、そのままひんやりと足触りのいい床の上で頼綱からパンプスを受け取った。
頼綱と離れたことが残念なような、ホッとしたような……。何とも複雑な気持ちに包まれて、呆けてしまう。
頼綱が私を抱き上げたまま器用に車のドアを閉める気配を感じながら、このままの状態で庭を突っ切るのは大変なんじゃないかと思い至った。
だって私、食いしん坊だからそれなりに重いと思うし!
「わ、私自分で――」
歩けるって言おうと思ったら、「絆創膏を剥がしてしまったのは俺だから」ってすぐ耳元で頼綱の優しい声。
彼の身に纏う香水の香りと、大好きな低音ボイスにもっと抗議しなきゃダメなのに、頭の芯がぼぉっとして鈍ってしまう。
「花々里はもう少し太ってもいいね」
そんな私を抱いて歩きながら、頼綱がポツンとつぶやいて。
その言葉にハッと我に返ると、私は「滅相もございません!」と、頼綱に擦り付けたままの首をふるふると振った。
だって私、小町ちゃんに比べたら二の腕とかめちゃポヨポヨしてるもん!
「くすぐったいよ」
途端クスクスと笑われて「ごめんなさいっ」と少し距離をあけたら、
「離れないで? 落ちたら大変だからね」
少しだけ身体を抱き直されて、私はソワソワともう1度頼綱にギュッと寄り添うようにしがみついた。
と、玄関まであと少し、というところで、
「花々里……、甘くていい匂いがするね」
どこかうっとりとした声音で頼綱からそう言われて……「ん? 何が?」と思う。
でも、彼の言葉に鼻をヒクヒクさせてみれば、家の方から甘い香りがしてくるのに気が付いて、「八千代さん、お菓子作ったのかなっ?」って思わず声を弾ませた。
にっこり笑って「プリンかなっ? カラメルソースみたいな匂いがするよね!?」ってワクワクしながら頼綱を見上げたら、頼綱ってば「いや、俺が言ったのは花々里の……」と、何かを言いかけるの。
その言葉に「ん? 私の?」って小首を傾げたら、「いや、いい」ってやめちゃって。
変な頼綱。
さては私より先に美味しい匂いに気付いたのが恥ずかしかったのかな?
もう、可愛い所があるんだからっ!
頼綱はそんなに筋肉質には見えないのに、やはり男性だ。
私を抱く二の腕にも、身体を預けた胸板からも、着痩せするけれどしっかりと付いた筋肉の存在を感じさせられて。
甘い香りに負けないくらいの頼綱のいい匂いに包まれて、私はソワソワしたまま玄関をくぐった。
玄関先で頼綱から降ろされた私は、そのままひんやりと足触りのいい床の上で頼綱からパンプスを受け取った。
頼綱と離れたことが残念なような、ホッとしたような……。何とも複雑な気持ちに包まれて、呆けてしまう。
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