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初めて♥

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「そうだ花々里かがり。今日産科の方に顔を出した時にたまたまもらったんだがね、キミにと思って取っておいたんだよ」

 職員駐車場の片隅に停められた黒のレクサスに乗り込むなり、頼綱よりつながそう言って小さな紙袋を差し出してきた。

「良い子で待っていられたご褒美だよ」

 それは朝も見た例のシュークリームが入った包みで。
 条件反射かな。
 鳥飼とりかいさんの車の中で食べたカスタードクリームの濃厚な卵の風味が口の中によみがえる。

「シュークリーム!」

 興奮の余り、まだ袋の中に入ったまま。中身なんて見えていないのに思わずそう口走ってしまってから、「しまった!」と思って口を押さえた。

 でも後の祭り。


「まだ中身、見えていないよね? ねぇ花々里かがり。それなのに、キミは何故これがシュークリームだと分かったのかな?」

 ガチャッ、と音がしたのは頼綱がドアロックをかけた音でしょうか?

 ダッシュボードの上にシュークリームの入った紙袋が載せられるのを、私は呆然と見つめた。

 ――私のシュークリーム……!

 このに及んでそんなことを思ってしまってから、自分の上にフッと影が差したことで、それどころじゃないのだとハッとする。

 頼綱よりつなが助手席に座る私の上に半ば覆い被さるように身を乗り出してきて、私はシートと頼綱の腕とに閉じ込められて。

「あ、あのっ、よりつ……」

 な、まで言えないヒンヤリとした空気が、私の喉をひりつかせた。

「ねぇ、花々里かがりにも分かるように説明してもらえる?」

 口調はとっても穏やかだけど、僕になってます、頼綱さんっ!

 ひぇーっ!


***

「――つまり、キミは僕が知らない間に鳥飼とりかいから同じものをもらった、と……。そういう解釈で合っているかな?」

 しどろもどろになりながら今朝の経緯を懸命に話したら、頼綱よりつなが静かな声音でそう言った。

 私は頼綱が未だ「僕」のままなことを気にしつつ、小さくうなずいた。

「ふぅ~ん。それで昼、キミは紅茶しか飲まなかったんだ」

 僕以外から餌付けされるとか許せないね、って付け足しとともに冷ややかに見下ろされて、私はグッと言葉に詰まる。

 だって図星だったから。

「――ごめんなさい……」

 小さくそう謝罪したら、「花々里かがりの誠意は……詫びの言葉を口に乗せるだけなのかね?」って聞かれて。

「黙っていたってことは、それが悪いことだとキミ自身認識していたってことだよね?」

 そんな風に畳み掛けられた私は、どうしたらいいのか分からなくなる。
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