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便利だなんて思えません!

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「まぁ、花々里かがりが大人しくロビーを動かずにいてくれたら俺からもかける必要はないんだけどね」

 頼綱よりつなにじっと見つめられて、私は胸が苦しくて堪らない。

 出掛けにはとても綺麗に後方へ向けて撫でつけられていた髪が、激務のせいか少し乱れて落ちてきているのが、逆にとても色っぽく見えた。

 ある意味キッチリ整えられている髪型ときより、このぐらいラフになっている方がカッコいい。

 そういえば初めてアパート前で頼綱に声をかけられた時にもこんな雰囲気だったっけ……と思い出した私は、あの時の頼綱はお仕事帰りだったのかな、と思案する。

 あれよあれよと一緒に住むことになって、家で頼綱を見る機会の方が圧倒的に増えたからか、改めてお仕事モードの頼綱と向かい合っているんだと意識したらもうダメで。
 恥ずかしさに頼綱のことを直視できなくなってしまった。

 仕方なく中身のぬるんだカップをギュッと握りしめて、うつむきがちにうなずいたら、

「いい子にしていたらご褒美をあげるからね」

 って頭をヨシヨシされる。

 頼綱はここが職場の食堂で、いわゆる公衆の面前だということを失念していやしないだろうか。

「よ、りつなっ。こんな所でやたらめったら撫でないでっ!」

 よくよく考えてみたらさっきから頭、撫で過ぎだから!


 慌てて頭に乗せられた大きな手を払い除けるようにして言ったら、クスッと笑われて「ひょっとして照れてる?」って嬉しそうな顔を向けてくるの。

 もぅ、そういう所作のひとつひとつが全部反則だから!

「だっ、誰がっ」

 思わずそう反論してみたものの、耳まで熱くなっているのが分かる。

 もし視覚的に見ても真っ赤になっているのだとしたら、嘘をついているのなんてバレバレだ。

 頼綱よりつなはそんな私に、「本当、俺の花々里かがり可愛いね」って恥ずかしげもなく言って。

 私は彼のその言葉で、やはり真っ赤になっているのだと自覚させられる。

「頼綱の……意地悪!」

 キッと頼綱を睨みつけてみたけれど、軽くいなされてしまった。


 頼綱はそこでふと腕時計に視線を注ぐと、「――そろそろ戻らないといけなさそうだ」って残念そうに声のトーンを落とすの。

 お医者さんモードの頼綱と一緒にいるの、目立つし照れ臭くて恥ずかしい!って思っていたくせに、そう言われたら何だか急に寂しくなった。


 私はいつからこんな、ご主人様を待つ健気なワンコみたいになってしまったんだろう。


「花々里。お願いだからそんな不安そうな顔をしないでおくれ。離れ難くなるだろう?」

 フニッと頬をつままれて、私は自分が口をへの字にしていたことに気付かされた。
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