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便利だなんて思えません!
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「よ、頼綱は……今から?」
ひとり妄想が暴走してしまったことを反省しつつ、道路のライン事情から頼綱のお腹事情へ心配の矛先をシフトさせたら、「まぁいつもこんなものだよ」って返事。
それを聞いた途端、先に食べてしまったことに少なからず罪悪感を感じて、チクリと胸が痛んだ。
だって私、お昼ご飯前にシュークリームやカフェラテだってお腹の虫に与えてる。
なのにご主人様を待てなかったって……どれだけダメなワンコなの。
それに……。鳥飼さんから簡単に餌付けされてしまったのも、今思えばいけない事だったんじゃないかと不安になる。
「花々里? 何故そんな顔をするのかね?」
――ぼくに内緒でやましいことでもしたの?
小さく付け加えられた不穏な言葉は、幸か不幸か喧騒にかき消されて聞こえなくて。
でも私は、〝そんな顔〟の理由を眉根を寄せて一生懸命答えたの。
「お昼、私だけ先に食べちゃってごめんなさい。こっ、これでもっ、13時くらいまでは待ってたのよ? でも……それ以上はマテができませんでした」
ペコリと頭を下げながら、もう一度「ごめんなさい」と言ったら、「花々里にマテなんて期待してないのに。馬鹿な子だ」って、言葉とは裏腹に優しくクシャリと頭を撫でられた。
今日は鳥飼さんにも何度かそうされたけれど、やっぱり頼綱に撫でられるのが1番しっくりくる。
嗅ぎ慣れた頼綱の香りがふんわり漂ってきて、胸がトクンと脈打った。
くすぐったい心地よささに「んっ」とつぶやいて首をすくめたら、頼綱が困ったような顔をして。
「鳥飼のスマホからキミのメッセージが来たことを問い詰めようと思っていたんだがね。そんな可愛らしい反応をされたら怒れないじゃないか」
言われて、私はその問題があったことを今更のように思い出して青ざめる。
「あ、あのっ。鳥飼さんはっ」
言い訳がましく言い募ろうとしたら、唇に人差し指を押し当てられてしまった。
「いま聞いたら平常心でいられる自信がない。夕方にじっくり聞かせてもらえるかな?」
口調こそ穏やかだけど、何だか背筋にゾクリとくる気がして、私はソワソワと瞳を泳がせる。
「花々里、返事は?」
有無を言わせぬ調子で畳みかけられて、「はい」としぶしぶ首肯したら、「じゃあとりあえず食堂へ行こうか」って手を引かれた。
「よっ、頼綱っ」
そんな頼綱に、私は恐る恐る手を引っ張り返しながら声をかける。
み、御神本先生。ここにいらっしゃる皆さんが見ておられますよ?
私みたいな乳臭い小娘の手を引っ張って歩いて、大丈夫ですかっ?
そう、視線で訴えたけれど、逆にニヤリと不敵に微笑まれて。ばかりか、グイッと強く手を引かれて、よろけたところを当然のように抱きとめられてしまった。
「ひゃっ! ひょ、頼綱っ」
気が動転するあまり、頼綱と呼べなかった私を完全無視して肩を抱いたまま、頼綱が颯爽とロビーを突っ切って行く。
みっ、皆さんの視線が痛いですっ、頼綱坊っちゃまぁぁぁぁーっ!
「よ、頼綱は……今から?」
ひとり妄想が暴走してしまったことを反省しつつ、道路のライン事情から頼綱のお腹事情へ心配の矛先をシフトさせたら、「まぁいつもこんなものだよ」って返事。
それを聞いた途端、先に食べてしまったことに少なからず罪悪感を感じて、チクリと胸が痛んだ。
だって私、お昼ご飯前にシュークリームやカフェラテだってお腹の虫に与えてる。
なのにご主人様を待てなかったって……どれだけダメなワンコなの。
それに……。鳥飼さんから簡単に餌付けされてしまったのも、今思えばいけない事だったんじゃないかと不安になる。
「花々里? 何故そんな顔をするのかね?」
――ぼくに内緒でやましいことでもしたの?
小さく付け加えられた不穏な言葉は、幸か不幸か喧騒にかき消されて聞こえなくて。
でも私は、〝そんな顔〟の理由を眉根を寄せて一生懸命答えたの。
「お昼、私だけ先に食べちゃってごめんなさい。こっ、これでもっ、13時くらいまでは待ってたのよ? でも……それ以上はマテができませんでした」
ペコリと頭を下げながら、もう一度「ごめんなさい」と言ったら、「花々里にマテなんて期待してないのに。馬鹿な子だ」って、言葉とは裏腹に優しくクシャリと頭を撫でられた。
今日は鳥飼さんにも何度かそうされたけれど、やっぱり頼綱に撫でられるのが1番しっくりくる。
嗅ぎ慣れた頼綱の香りがふんわり漂ってきて、胸がトクンと脈打った。
くすぐったい心地よささに「んっ」とつぶやいて首をすくめたら、頼綱が困ったような顔をして。
「鳥飼のスマホからキミのメッセージが来たことを問い詰めようと思っていたんだがね。そんな可愛らしい反応をされたら怒れないじゃないか」
言われて、私はその問題があったことを今更のように思い出して青ざめる。
「あ、あのっ。鳥飼さんはっ」
言い訳がましく言い募ろうとしたら、唇に人差し指を押し当てられてしまった。
「いま聞いたら平常心でいられる自信がない。夕方にじっくり聞かせてもらえるかな?」
口調こそ穏やかだけど、何だか背筋にゾクリとくる気がして、私はソワソワと瞳を泳がせる。
「花々里、返事は?」
有無を言わせぬ調子で畳みかけられて、「はい」としぶしぶ首肯したら、「じゃあとりあえず食堂へ行こうか」って手を引かれた。
「よっ、頼綱っ」
そんな頼綱に、私は恐る恐る手を引っ張り返しながら声をかける。
み、御神本先生。ここにいらっしゃる皆さんが見ておられますよ?
私みたいな乳臭い小娘の手を引っ張って歩いて、大丈夫ですかっ?
そう、視線で訴えたけれど、逆にニヤリと不敵に微笑まれて。ばかりか、グイッと強く手を引かれて、よろけたところを当然のように抱きとめられてしまった。
「ひゃっ! ひょ、頼綱っ」
気が動転するあまり、頼綱と呼べなかった私を完全無視して肩を抱いたまま、頼綱が颯爽とロビーを突っ切って行く。
みっ、皆さんの視線が痛いですっ、頼綱坊っちゃまぁぁぁぁーっ!
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