上 下
144 / 317
便利だなんて思えません!

3

しおりを挟む
***

「よ、頼綱よりつなは……今から?」

 ひとり妄想が暴走してしまったことを反省しつつ、道路のライン事情から頼綱のお腹事情へ心配の矛先をシフトさせたら、「まぁいつもこんなものだよ」って返事。

 それを聞いた途端、先に食べてしまったことに少なからず罪悪感を感じて、チクリと胸が痛んだ。
 だって私、お昼ご飯前にシュークリームやカフェラテだってお腹の虫に与えてる。

 なのにご主人様を待てなかったって……どれだけダメなワンコなの。

 それに……。鳥飼さんよそのひとから簡単に餌付けされてしまったのも、今思えばいけない事だったんじゃないかと不安になる。


花々里かがり? 何故そんな顔をするのかね?」

 ――に内緒でやましいことでもしたの?


 小さく付け加えられた不穏な言葉は、幸か不幸か喧騒けんそうにかき消されて聞こえなくて。


 でも私は、〝そんな顔〟の理由を眉根を寄せて一生懸命答えたの。


「お昼、私だけ先に食べちゃってごめんなさい。こっ、これでもっ、13時いちじくらいまでは待ってたのよ? でも……それ以上はマテができませんでした」

 ペコリと頭を下げながら、もう一度「ごめんなさい」と言ったら、「花々里かがりにマテなんて期待してないのに。馬鹿な子だ」って、言葉とは裏腹に優しくクシャリと頭を撫でられた。
 
 今日は鳥飼とりかいさんにも何度かそうされたけれど、やっぱり頼綱よりつなに撫でられるのが1番しっくりくる。

 嗅ぎ慣れた頼綱の香りがふんわり漂ってきて、胸がトクンと脈打った。

 くすぐったい心地よささに「んっ」とつぶやいて首をすくめたら、頼綱が困ったような顔をして。


「鳥飼のスマホからキミのメッセージが来たことを問い詰めようと思っていたんだがね。そんな可愛らしい反応をされたら怒れないじゃないか」

 言われて、私はその問題があったことを今更のように思い出して青ざめる。


「あ、あのっ。鳥飼さんはっ」

 言い訳がましく言い募ろうとしたら、唇に人差し指を押し当てられてしまった。


「いま聞いたら平常心でいられる自信がない。夕方にじっくり聞かせてもらえるかな?」

 口調こそ穏やかだけど、何だか背筋にゾクリとくる気がして、私はソワソワと瞳を泳がせる。

花々里かがり、返事は?」

 有無を言わせぬ調子で畳みかけられて、「はい」としぶしぶ首肯したら、「じゃあとりあえず食堂へ行こうか」って手を引かれた。

「よっ、頼綱よりつなっ」

 そんな頼綱に、私は恐る恐る手を引っ張り返しながら声をかける。

 み、御神本みきもと先生。ここにいらっしゃる皆さんが見ておられますよ?
 私みたいな乳臭い小娘の手を引っ張って歩いて、大丈夫ですかっ?

 そう、視線で訴えたけれど、逆にニヤリと不敵に微笑まれて。ばかりか、グイッと強く手を引かれて、よろけたところを当然のように抱きとめられてしまった。

「ひゃっ! ひょ、頼綱ひょりつなっ」

 気が動転するあまり、頼綱よりつなと呼べなかった私を完全無視して肩を抱いたまま、頼綱が颯爽さっそうとロビーを突っ切って行く。

 みっ、皆さんの視線が痛いですっ、頼綱坊っちゃまぁぁぁぁーっ!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~

花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】 この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。 2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて…… そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。 両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!? 「夜のお相手は、他の女性に任せます!」 「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」 絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの? 大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ! 私は私の好きにさせてもらうわ! 狭山 聖壱  《さやま せいいち》 34歳 185㎝ 江藤 香津美 《えとう かつみ》  25歳 165㎝ ※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m

処理中です...