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お兄ちゃん気質のあの人
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鳥飼さんが寄ってくれたコンビニは、以前頼綱と一緒に立ち寄ったことのある店舗な気がして思わず身を乗り出す。
じっと目を凝らしてみるけれど、あの夜、頼綱が飴を買ってくれたところのようでもあり、違うところのようでもあり。
前に寛道からチェーン店を目印に道を覚えるのは花々里にはハードルが高いと言われたのを身をもって実感する。
「何飲む?」
こちらを振り返った鳥飼さんにそう問いかけられて、「あ、私もっ」って動こうとしたら、「ソレ持ったまま?」と食べかけのシュークリームを指さされて苦笑された。
「あ……」
確かにこれを手にしたまま店内には入れそうにない。
一旦もとのパッケージに戻そうかとも思ったけれど、たっぷりと中に入ったクリームがこぼれ落ちてしまいそうでもったいない。
「あ、あのっ」
それでも何とか現状を打開しようと思考をフル回転させてみたけれどダメで。
「俺が買ってきてやるから大人しく待ってろ。な?」
ついには鳥飼さんにそう見切りをつけられてしまった。
「で、何にする?」
再度問いかけられた私は、シュークリームを片手に鞄からゴソゴソとお財布を取り出して、「カフェラ……」と言いかけてから「ち、ちっさな牛乳でっ」お願いします……とゴニョゴニョ語尾を濁らせた。
レギュラーコーヒーが1番安価なのは知っているのだけれど、私はコーヒーにはミルクがたっぷりじゃないと飲めないお子ちゃま舌だ。
かといって、一番好きなカフェラテは高いし。
頼綱のところへ移り住んだことで色々曖昧になっているけれど、私、沢山していたバイトを続けるのは無理っぽくて辞めたし、頼綱のところの住み込みのバイトは、よく考えてみたら現金収入になるのか否かさえも分からなくて。
冷暖房完備の快適な一軒家に間借りさせてもらっている上に美味しい食事付き。
この上さらにお給金を望んだりしたら、バチが当たる気がする。
となれば、いま手元にある現金はかなり貴重だ。
その結果導き出された答えが牛乳なわけで。
お財布をごそごそして、とりあえず目についた500円玉を取り出して差し出したら「仕舞っとけ」と断られてしまった。
「でも……」
それでも更に言い募ろうとしたら、「別に飲み物なくてもソレ、食えただろ?」って手にしたシュークリームに視線を落とされる。
確かに最初はそのつもりだったし、なくても難なく食べられるけど。
話が見えないままに小さくうなずいたら、「だったら俺に無理矢理飲まされると思って、おごらせとけ」って軽くウインクされて。
不覚にもその仕草にドキッとして固まった私を置いて、鳥飼さんがさっさとコンビニに入っていってしまう。
私は食べかけのシュークリームと、差し戻されてしまった500円玉を手にしたまま、呆然と彼の後ろ姿を見送った。
そういえば――。
私、頼綱に対してこういう遠慮、したことなかったなって思いながら。
鳥飼さんが寄ってくれたコンビニは、以前頼綱と一緒に立ち寄ったことのある店舗な気がして思わず身を乗り出す。
じっと目を凝らしてみるけれど、あの夜、頼綱が飴を買ってくれたところのようでもあり、違うところのようでもあり。
前に寛道からチェーン店を目印に道を覚えるのは花々里にはハードルが高いと言われたのを身をもって実感する。
「何飲む?」
こちらを振り返った鳥飼さんにそう問いかけられて、「あ、私もっ」って動こうとしたら、「ソレ持ったまま?」と食べかけのシュークリームを指さされて苦笑された。
「あ……」
確かにこれを手にしたまま店内には入れそうにない。
一旦もとのパッケージに戻そうかとも思ったけれど、たっぷりと中に入ったクリームがこぼれ落ちてしまいそうでもったいない。
「あ、あのっ」
それでも何とか現状を打開しようと思考をフル回転させてみたけれどダメで。
「俺が買ってきてやるから大人しく待ってろ。な?」
ついには鳥飼さんにそう見切りをつけられてしまった。
「で、何にする?」
再度問いかけられた私は、シュークリームを片手に鞄からゴソゴソとお財布を取り出して、「カフェラ……」と言いかけてから「ち、ちっさな牛乳でっ」お願いします……とゴニョゴニョ語尾を濁らせた。
レギュラーコーヒーが1番安価なのは知っているのだけれど、私はコーヒーにはミルクがたっぷりじゃないと飲めないお子ちゃま舌だ。
かといって、一番好きなカフェラテは高いし。
頼綱のところへ移り住んだことで色々曖昧になっているけれど、私、沢山していたバイトを続けるのは無理っぽくて辞めたし、頼綱のところの住み込みのバイトは、よく考えてみたら現金収入になるのか否かさえも分からなくて。
冷暖房完備の快適な一軒家に間借りさせてもらっている上に美味しい食事付き。
この上さらにお給金を望んだりしたら、バチが当たる気がする。
となれば、いま手元にある現金はかなり貴重だ。
その結果導き出された答えが牛乳なわけで。
お財布をごそごそして、とりあえず目についた500円玉を取り出して差し出したら「仕舞っとけ」と断られてしまった。
「でも……」
それでも更に言い募ろうとしたら、「別に飲み物なくてもソレ、食えただろ?」って手にしたシュークリームに視線を落とされる。
確かに最初はそのつもりだったし、なくても難なく食べられるけど。
話が見えないままに小さくうなずいたら、「だったら俺に無理矢理飲まされると思って、おごらせとけ」って軽くウインクされて。
不覚にもその仕草にドキッとして固まった私を置いて、鳥飼さんがさっさとコンビニに入っていってしまう。
私は食べかけのシュークリームと、差し戻されてしまった500円玉を手にしたまま、呆然と彼の後ろ姿を見送った。
そういえば――。
私、頼綱に対してこういう遠慮、したことなかったなって思いながら。
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