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送り狼的な彼

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「は、鼻水は保留にできないよ!? っていうか、もう垂れてるしっ」

 そして……これは言えないけど多分あなたに付いてる……。

 ちょっと考えてそう言ったら、「バカか。書類の話だよ」って腕に力を込められる。


「く、苦し……っ」

 寛道ひろみち、私を絞め落とすおつもりですか?
 
 私の頭を自分の胸元に押し付けるようにがっちりホールドしてくる寛道の手を、バシバシ叩いて抗議したら「あ、すまん」って手を緩めてくれて。

 さっきは多分だったけど、今ので鼻水、寛道の服にしっかりついたな、と確信した。
 でもこれ、私のせいじゃないよね?


「書……類、は……うん。そういう約束で頼綱よりつなの部屋の金庫の中に仕舞ってもらってるから」


 緩められた腕にホッとしてプハッと息を吸い込みながらそう言ったら「は? 手元にねぇのかよ!」とか。


 ないけど……。
 きっと問題ないよ?

 そう言う契約やくそくだし。
 それに、お母さんの同意のサイン、もらってないもの。

「私、未成年だからね、親のサインがないと役所、受け付けてくれないのよ。そこ、まだだから大丈夫!」

 えっへん。
 って胸を張ったら「あと1年9ヶ月か」ってつぶやかれて。

 突然のセリフに「何が?」って思う。

「お前が二十歳はたちになるまでの猶予ゆうよ期間の話」


 まるで私の心の声を拾ったみたいにそう言った寛道が、「けどおばさんがアイツに懐柔かいじゅうされたらその時点で即刻アウトか」って考え込んで。

「……寛道ひろみち?」


 どしたの?
 真剣な顔しちゃって。


 思って寛道の顔をじっと見上げていたら、「花々里かがり。住むトコなくてとつぐってんなら……気心の知れた俺にしとけよ」って見つめ返されて。

 ん? どういう……意味?


「意味わかんないよ?」


 キョトンとして寛道を見詰めたら、「お前のこと好きだっつってんの! 分かれよ」って怒られた。


 そ、そんなのっ、唐突すぎて分かりっこない!


***

 そもそも寛道ひろみち小町こまちちゃんが好きなんだから、私への「好き」は恋愛絡みの「好き」ではないはず。

 きっと小町ちゃんに振られちゃったからご乱心なのね?


 ということは、きっとこの好きって――。


「……えっと……それは……私がかぼちゃの煮物が好き、とかいうのと同じ〝好き〟だよね?」

 なんだと思う、きっと。
 こう、小さい頃から慣れ親しんでるから、見掛けたらホッとする感じの。

 それ、奪われると思ったから焦ってるのね?
 もぉ、可愛いところあるんだからっ。



 そう思いながら「だよね?」のところで小首を傾げたら、寛道が息を呑んだ。


 えっと……。
 否定しないってことは……肯定でOK?

 だとしたら――。
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