106 / 317
送り狼的な彼
2
しおりを挟む
「なんだ寛道じゃないっ」
口に当てられた手を外して言って、確認がてら後ろを振り返る。
それはよく柳川家からお裾分けをもらうとき、寛道んトコのおばちゃんが料理を入れてくれる、半透明の器に青いフタの付いたプラスチック製の入れ物で。
それを見た瞬間、すぐに私を捕まえてるのが寛道だって分かった。
「お前なぁ、タッパーより先に俺の声で気づけよ!」
ぶつくさ文句を言いながら……それでもどこか申し訳なさそうに
「昨日お前、俺が差し入れ食っちまったの怒ってたから……代わりな?」
とか。
寛道、あなた、案外いいところあるじゃないっ!
中身はかぼちゃの煮付けらしい。
やったー! おばちゃんの煮物大好き!
タッパーを手にニマニマしていたら、
「ついでだし学校、一緒に行ってやるよ。荷物寄越せ」
当然のようにタッパーと引き換えに私の重ぉーい教材満載のキャンパストートを持ってくれるの。
何この至れり尽くせり♥
道すがら、変形菌の話をBGMに、私は明日に備えて一生懸命新たな目印覚えに余念がない。
いい加減ちゃんとしなきゃ、帰り道だって怪しくなりそうだもん。
帰路のことが気になって、振り返り振り返り進行方向とは逆向きの景色を確認しながら歩いていたら
「花々里。お前、俺の話聞いてる?」
問われて「今、目印覚えてるんだから静かにっ!」って眉根を寄せる。
途端寛道に
「視覚に聴覚が影響与えんのか、お前」
溜め息混じり、「独立させろよ、五感」と呆れたように言われてから、
「因みに一応聞くんだけど……まさかお前、車とか目印にしてねぇよな?」
聞かれて、ギクッ!としてしまった。
「バッ、バカにしないで!」
それらが動いてしまうこと、私、ついさっき嫌と言うほど思い知ったんだから!
「じゃあさ、何覚えたのか言ってみ?」
言われて「コンビニでしょ? あと……あそこのお家、お庭に大きな黒いワンちゃんいた! それから……あっちのアパートのベランダ、真っ赤なワンピース干してあった!」と指折り数えたら「花々里、それ……迷うための努力をしてるわけじゃねぇよな?」って溜め息をつかれた。
「どういう意味よ!?」
キッ!と睨みつけたら「庭のワンコは散歩行ったり家ん中入ったりしねぇのか? それからベランダのワンピースは乾いたら取り込むよな、普通」と苦笑いしながら言われて。
「あ……」
って思わずつぶやいてから「でっ、でもっ! コンビニは動かないわっ!」って言い募る。
「まぁ、そん中じゃ1番マシだな。けど花々里。コンビニとかチェーン店ってさ、似た感じの作りのがあちこちにあっからな? お前みたいな方向音痴が目印にするのはハードル高ぇだろ」
とか。
くっ!
ぐうの音も出ないってこのことかもしれないっ!
そうか。だから私、新しい環境では必ず迷子になっちゃうんだ……。
今日も、寛道がいてくれなかったら私、大学には行き着けていなかったかもしれません。
口に当てられた手を外して言って、確認がてら後ろを振り返る。
それはよく柳川家からお裾分けをもらうとき、寛道んトコのおばちゃんが料理を入れてくれる、半透明の器に青いフタの付いたプラスチック製の入れ物で。
それを見た瞬間、すぐに私を捕まえてるのが寛道だって分かった。
「お前なぁ、タッパーより先に俺の声で気づけよ!」
ぶつくさ文句を言いながら……それでもどこか申し訳なさそうに
「昨日お前、俺が差し入れ食っちまったの怒ってたから……代わりな?」
とか。
寛道、あなた、案外いいところあるじゃないっ!
中身はかぼちゃの煮付けらしい。
やったー! おばちゃんの煮物大好き!
タッパーを手にニマニマしていたら、
「ついでだし学校、一緒に行ってやるよ。荷物寄越せ」
当然のようにタッパーと引き換えに私の重ぉーい教材満載のキャンパストートを持ってくれるの。
何この至れり尽くせり♥
道すがら、変形菌の話をBGMに、私は明日に備えて一生懸命新たな目印覚えに余念がない。
いい加減ちゃんとしなきゃ、帰り道だって怪しくなりそうだもん。
帰路のことが気になって、振り返り振り返り進行方向とは逆向きの景色を確認しながら歩いていたら
「花々里。お前、俺の話聞いてる?」
問われて「今、目印覚えてるんだから静かにっ!」って眉根を寄せる。
途端寛道に
「視覚に聴覚が影響与えんのか、お前」
溜め息混じり、「独立させろよ、五感」と呆れたように言われてから、
「因みに一応聞くんだけど……まさかお前、車とか目印にしてねぇよな?」
聞かれて、ギクッ!としてしまった。
「バッ、バカにしないで!」
それらが動いてしまうこと、私、ついさっき嫌と言うほど思い知ったんだから!
「じゃあさ、何覚えたのか言ってみ?」
言われて「コンビニでしょ? あと……あそこのお家、お庭に大きな黒いワンちゃんいた! それから……あっちのアパートのベランダ、真っ赤なワンピース干してあった!」と指折り数えたら「花々里、それ……迷うための努力をしてるわけじゃねぇよな?」って溜め息をつかれた。
「どういう意味よ!?」
キッ!と睨みつけたら「庭のワンコは散歩行ったり家ん中入ったりしねぇのか? それからベランダのワンピースは乾いたら取り込むよな、普通」と苦笑いしながら言われて。
「あ……」
って思わずつぶやいてから「でっ、でもっ! コンビニは動かないわっ!」って言い募る。
「まぁ、そん中じゃ1番マシだな。けど花々里。コンビニとかチェーン店ってさ、似た感じの作りのがあちこちにあっからな? お前みたいな方向音痴が目印にするのはハードル高ぇだろ」
とか。
くっ!
ぐうの音も出ないってこのことかもしれないっ!
そうか。だから私、新しい環境では必ず迷子になっちゃうんだ……。
今日も、寛道がいてくれなかったら私、大学には行き着けていなかったかもしれません。
1
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
氷の上司に、好きがバレたら終わりや
naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。
お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、
“氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。
最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、
実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき――
舞子の中で、恋が芽生えはじめる。
でも、彼には誰も知らない過去があった。
そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。
◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか?
◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか?
そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。
笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。
関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。
仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。
「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる