【完結】【R15】そろそろ喰ってもいい頃だよな？〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません！ 謹んでお断り申し上げます！〜

隠れ家的なんとかと言うやつ

6

「お医者さん！？」

　ヤクザ屋さんではなくて！？という言葉を寸でのところで飲み込んで。
　それでも驚きに目をまん丸にして興味津々に鳥飼とりかいさんを見つめたら、頼綱よりつなが小さく吐息を落とすの。


「鳥飼、俺は今フィアンセとデート中なんでこれで失礼するよ」

　まるでこの話はここまでと言わんばかりにそう言って、私の手を引いて奥に向かってズンズン歩き出す。

　そんな頼綱に引きずられながら、私は必死に後方へ向けて叫んだ。

「たっ、ただの主従関係ですぅ～！」

　フィアンセとかじゃなく！


　そう続けたかったけれど、そこで上あがり框かまちに差し掛かった私は、靴も脱いでないのに頼綱よりつなに半ば強引に座敷内に引き摺り込まれてしまって。

　情けなく四つん這いになった状態で足から履き慣れた靴を脱がされた。



　ピシャリ。

　せめて自分で靴を揃えたかったのに、頼綱にそれもされてしまって、「あの！」と靴に向かって手を伸ばした体勢のまま、目の前で障子の貼られた引き戸を閉ざされてしまう。


　何なの、何なの、頼綱ってば本当どうしたの！


　そのせいで、鳥飼とりかいさんと雨宮あまみやさんが、「主従関係のある許婚いいなずけ」というパワーワードによからぬ妄想を膨らませているともつゆ知らず。


「――花々里かがり。確かに鳥飼とりかいはハンサムだけどね。さすがに目の前で僕以外の男に興味を持たれるのは面白くないんだけど？」


　私は今、怖ぁ～い顔をした頼綱よりつなに壁際に追い詰められています……。

　ひーん。
　口調も「僕」だしっ。


　ねぇ頼綱よりつな。
　私、別にあの人に興味なんて持ってないよ？
　ヤクザ屋さんじゃなかったんだ！って思っただけだし。
　こんなキラキラした頭の研修医がいる病院ってすごいなって感心しただけだよ！？


　それにあの綺麗な金色を見ていたら……。

　じゅるり……。
　
　思わず生つばが込み上げてきて、私は慌てて口の中ににじみ出てきた唾液を嚥下した。


　そもそも――。


「私、顔は断然頼綱よりつなの方が好この……」


　思わず要らないことを言いそうになって、慌ててブンブン首を横に振った。


　「好みの顔」＝「好き」じゃない。「好みの顔」＝「好き」じゃない。「好みの顔」＝「好き」じゃない。


　自分に言い聞かせるように心の中で３回そう唱える。
　何で３回なのかは自分でもよく分かんないけどああ言う系は大抵「３」だと相場が決まっているもの。