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隠れ家的なんとかと言うやつ
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「頼綱もそんな奥さんを見つけたらいいじゃない。病院の跡取り息子ともなれば引く手数多でしょうに」
言って、じっと頼綱を見つめたら、「花々里、キミはひとつ勘違いをしているみたいだけど……。俺はまだ家を継いでいないからね?」と言われて。
私は「え?」と思った。
「でも頼綱は……」
「ああ、もちろん医者だよ。けど、――まだ研修医だ」
って嘘ぉ!
初耳なんですが!
「いずれは実家の産婦人科を継ぐつもりではいるけどね、いま俺が配属されてるのは小児科だ」
私はその言葉に瞳を見開いた。
小児科という言葉で、勝手に白衣ではなく可愛い動物のアップリケがついたエプロン姿の頼綱が頭に浮かんでしまい。
思わずププッと吹き出してしまう。
「頼綱にパンダのアップリケは似合わないと思うの」
思わずつぶやいて「え?」という顔をされる。
「頼綱なら……。うーん、そうねぇ。ライオンとかがいいんじゃないかしら?」
脳内でパンダ、ゾウ、キリン、ウサギ、ニワトリ、イヌ、ネコ……と次々に試着を繰り返してから、それが一番しっくりくるという結論に達した。
「まぁ、トラとオオカミも捨てがたいけど」
あ、待って? 鰻とか案外似合いそうじゃない!?
頼綱といえば私に美味しい〝うな重〟が現実のものなのだと生まれて初めて教えてくれた人。
鰻とは切っても切り離せないわ。
思いながら、初めて出会ったあの夜と同じ、スマートにスーツを着こなす頼綱の胸元に、S字に曲がった鰻のボディラインを貼り付けてみる。
ほらね、案外似合ってて鰻屋さんの経営者になれそう。
「櫃まぶし、食べたい……」
ふと食べ損ねたそれを思い出して無意識にポツンとつぶやいたら、頼綱に盛大な溜め息をつかれてしまった。
「何故ここでまた櫃まぶし……」
続けて何かを言おうとして、思いとどまったみたいに言葉を止めると、彼が明らかに意図的に話を変えたのが分かった。
頼綱め。櫃まぶしから離れるためにあえて話題を変えたわね?
「花々里。ひとつ訂正させてもらうと小児科医は別に保育士じゃない。俺は職場でエプロンはつけてないよ?」
まずそこからして出発点を間違っているからね?と頼綱に指摘されて、私は「あ……」と思う。
そっか。アップリケは白衣につけるのか。
「ね、白衣にも可愛いアップリケが付いたデザインとかあるの?」
聞いたら、ますます困惑した顔をされてしまった。
「花々里? キミはさっきから何を言っているのかな?」
何って……小児科医のユニフォームの話よ?
思いながら頼綱をキョトンと見つめていたら、背後で引き戸が開く気配がした。
言って、じっと頼綱を見つめたら、「花々里、キミはひとつ勘違いをしているみたいだけど……。俺はまだ家を継いでいないからね?」と言われて。
私は「え?」と思った。
「でも頼綱は……」
「ああ、もちろん医者だよ。けど、――まだ研修医だ」
って嘘ぉ!
初耳なんですが!
「いずれは実家の産婦人科を継ぐつもりではいるけどね、いま俺が配属されてるのは小児科だ」
私はその言葉に瞳を見開いた。
小児科という言葉で、勝手に白衣ではなく可愛い動物のアップリケがついたエプロン姿の頼綱が頭に浮かんでしまい。
思わずププッと吹き出してしまう。
「頼綱にパンダのアップリケは似合わないと思うの」
思わずつぶやいて「え?」という顔をされる。
「頼綱なら……。うーん、そうねぇ。ライオンとかがいいんじゃないかしら?」
脳内でパンダ、ゾウ、キリン、ウサギ、ニワトリ、イヌ、ネコ……と次々に試着を繰り返してから、それが一番しっくりくるという結論に達した。
「まぁ、トラとオオカミも捨てがたいけど」
あ、待って? 鰻とか案外似合いそうじゃない!?
頼綱といえば私に美味しい〝うな重〟が現実のものなのだと生まれて初めて教えてくれた人。
鰻とは切っても切り離せないわ。
思いながら、初めて出会ったあの夜と同じ、スマートにスーツを着こなす頼綱の胸元に、S字に曲がった鰻のボディラインを貼り付けてみる。
ほらね、案外似合ってて鰻屋さんの経営者になれそう。
「櫃まぶし、食べたい……」
ふと食べ損ねたそれを思い出して無意識にポツンとつぶやいたら、頼綱に盛大な溜め息をつかれてしまった。
「何故ここでまた櫃まぶし……」
続けて何かを言おうとして、思いとどまったみたいに言葉を止めると、彼が明らかに意図的に話を変えたのが分かった。
頼綱め。櫃まぶしから離れるためにあえて話題を変えたわね?
「花々里。ひとつ訂正させてもらうと小児科医は別に保育士じゃない。俺は職場でエプロンはつけてないよ?」
まずそこからして出発点を間違っているからね?と頼綱に指摘されて、私は「あ……」と思う。
そっか。アップリケは白衣につけるのか。
「ね、白衣にも可愛いアップリケが付いたデザインとかあるの?」
聞いたら、ますます困惑した顔をされてしまった。
「花々里? キミはさっきから何を言っているのかな?」
何って……小児科医のユニフォームの話よ?
思いながら頼綱をキョトンと見つめていたら、背後で引き戸が開く気配がした。
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