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なし崩し的にというより飯崩し的に
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「む、胸元に仕舞い込んだ書類っ! もう1度見せてください! 証人欄とか母の同意とか何ですか? 私が名前を書いたところ、〝妻〟って書かれてた気がするんですけど! ――ゆ、指だって勝手に使われたの気になりますしっ」
そこでさっき朱肉をつけられてほんのりと赤く色づいたままの右手親指を彼に向かって突き出す。
「――何を今更」
はぁと溜め息混じりに言われて、私の方に義があるはずなのに、何故かグラつきそうになる。
え? おかしいの、私?
ち、違う……よね?
「さっきの書類の証人欄を成人した誰かに埋めてもらって、キミのお母様に結婚に同意する旨の但し書きを頂いて役所に提出すれば、村陰花々里は俺の妻の御神本花々里になる。それだけのことだ」
開いた口が塞がらないという言葉を、身をもって経験したのは今日が初めてです!
口をポカーンと開けすぎて、危うくよだれが垂れてしまいそうになる。危ない、危ないっ。私は慌てて口を閉じた。
だ、だいたいっ、プロポーズとかありました?
私がおバカで忘れてるだけ?
妻になること前提で云々がそれだとしたら「んなバカな!?」ですよ?
何にしてもっ。そんなインパクトの薄い求婚ダメでしょう?
百歩譲ってそれがアレだったとして……私OKしてないしっ。
そういう諸々をすっ飛ばして婚姻届書かせる人って、絶対おかしい人よね? 感覚ズレてるの、御神本さんの方だよね?
「つっ、妻とか何とかっ。わ、私っ、ぷ、プロポーズも受けてませんし、あったとして……それをお受けするだなんて一言も」
前のめりになったのは、うなぎの宴・続「櫃まぶし・肝吸い編」での関わりだけですっ!
色々思いめぐらせつつも、とりあえずそれだけは、と何とか言ったら、「戸籍が変わることがそれほど問題か? うちに養子に入ったと思えばいいだろう」って、本気ですか?
「それって物凄く大きなことだと思うんですけど。そ、そもそもっ。ミキ……、ヨ、リツナはそれでいいの? 正直貴方ほどの男性なら、私みたいな小娘なんか相手にしなくても、もっともっと良いご縁があるでしょう?」
言ってて虚しくなってくるけれど事実だから仕方ない。
目の前の彼ならば、きっとどこぞの深窓の令嬢とだって簡単に結婚できてしまえるはずだ。
私よりもっとお金持ちで、親御さんが権力を持ったお嬢さんと一緒になって、その後ろ盾を得ることだって出来るでしょうに。
正直な話、私は下手をしたら負債を抱えたバリバリの「ハズレクジ」だ。
現に――。
「私なんか娶ろうとするから……学費なんてものを肩代わりしなきゃいけなくなるし、うなぎだって奢らされてしまうんですっ!」
日本文学科の学生らしく、古めかしい言葉を使ってバシっと決める。ついでにバンッ!とテーブルに手をついて、リアクションもバッチリに前のめりになって力説した!と同時に、ガタッと音がして。
気がつくと御神本さんが私の方へ身を乗り出してきたんだと分かった。
そこでさっき朱肉をつけられてほんのりと赤く色づいたままの右手親指を彼に向かって突き出す。
「――何を今更」
はぁと溜め息混じりに言われて、私の方に義があるはずなのに、何故かグラつきそうになる。
え? おかしいの、私?
ち、違う……よね?
「さっきの書類の証人欄を成人した誰かに埋めてもらって、キミのお母様に結婚に同意する旨の但し書きを頂いて役所に提出すれば、村陰花々里は俺の妻の御神本花々里になる。それだけのことだ」
開いた口が塞がらないという言葉を、身をもって経験したのは今日が初めてです!
口をポカーンと開けすぎて、危うくよだれが垂れてしまいそうになる。危ない、危ないっ。私は慌てて口を閉じた。
だ、だいたいっ、プロポーズとかありました?
私がおバカで忘れてるだけ?
妻になること前提で云々がそれだとしたら「んなバカな!?」ですよ?
何にしてもっ。そんなインパクトの薄い求婚ダメでしょう?
百歩譲ってそれがアレだったとして……私OKしてないしっ。
そういう諸々をすっ飛ばして婚姻届書かせる人って、絶対おかしい人よね? 感覚ズレてるの、御神本さんの方だよね?
「つっ、妻とか何とかっ。わ、私っ、ぷ、プロポーズも受けてませんし、あったとして……それをお受けするだなんて一言も」
前のめりになったのは、うなぎの宴・続「櫃まぶし・肝吸い編」での関わりだけですっ!
色々思いめぐらせつつも、とりあえずそれだけは、と何とか言ったら、「戸籍が変わることがそれほど問題か? うちに養子に入ったと思えばいいだろう」って、本気ですか?
「それって物凄く大きなことだと思うんですけど。そ、そもそもっ。ミキ……、ヨ、リツナはそれでいいの? 正直貴方ほどの男性なら、私みたいな小娘なんか相手にしなくても、もっともっと良いご縁があるでしょう?」
言ってて虚しくなってくるけれど事実だから仕方ない。
目の前の彼ならば、きっとどこぞの深窓の令嬢とだって簡単に結婚できてしまえるはずだ。
私よりもっとお金持ちで、親御さんが権力を持ったお嬢さんと一緒になって、その後ろ盾を得ることだって出来るでしょうに。
正直な話、私は下手をしたら負債を抱えたバリバリの「ハズレクジ」だ。
現に――。
「私なんか娶ろうとするから……学費なんてものを肩代わりしなきゃいけなくなるし、うなぎだって奢らされてしまうんですっ!」
日本文学科の学生らしく、古めかしい言葉を使ってバシっと決める。ついでにバンッ!とテーブルに手をついて、リアクションもバッチリに前のめりになって力説した!と同時に、ガタッと音がして。
気がつくと御神本さんが私の方へ身を乗り出してきたんだと分かった。
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