【完結】【R18】キス先① あなたに、キスのその先を。

鷹槻れん(鷹槻うなの)

文字の大きさ
上 下
232 / 233
■甘えんぼさん/気まぐれ書き下ろし短編■

ぽやんとした甘えんぼ

しおりを挟む
日織ひおりさん?」

 日没間近の長く伸びた影をともなった日差しのもと、気が付けば自分のすぐ隣、日織がソファで修太郎しゅうたろうの肩に頭を預けるようにしてスヤスヤと眠っていて、修太郎は「さてどうしたものか」と戸惑った。

 このままここで寝かせておいたら、目覚めた時に身体のあちこちが痛くなってしまっているかも知れない。
 それは可哀想だ。


 彼女の身体を倒してしまわないよう気遣いながらそっと立ち上がると、修太郎は愛しい日織の愛らしい寝顔をすぐそばで見下ろした。


「んっ……」

 やんわり抱き上げてベッドへ移動させようと伸ばした指先が、すべらかな二の腕に触れた途端、日織が小さく身じろいで、薄らと瞳を開いた。

「しゅ、たろぉさん……?」

 寝ぼけているのだろう。

 ぼんやりと潤んだで修太郎を見上げる日織の視線は、どこまでも茫洋ぼうようとしてとらえどころがない。

 カーテン越しに差し込む茜色の陽光を映してキラキラと黒瞳が揺らめいてはいるけれど、どこか焦点が定まっていないことでそれが分かる。

「日織?」

 もう1度日織の顔を覗き込んで、「眠いならベッドに行きしょう?」と声を掛ける。

 と、ようやくその目に修太郎の姿を認めたらしい日織が、それでも依然とした様相のまま、修太郎に向かって両手を差し伸べてきた。

「しゅうたろぉさんにっこして頂きたいのれす……」

 しっかりと目が覚めていたら、きっと恥ずかしくて言えないだろうセリフをそのプルンとした唇に乗せて、眼前の修太郎しゅうたろうの首筋に日織ひおりがギュッとしがみついてくる。

 修太郎はそんな日織にフッと柔らかな微笑みを落とすと、「寝ぼけた日織さんは甘えんぼさんですね」と小さくこぼして、眠気でポカポカと体温の高い日織をそっと抱き上げた。

「修太郎しゃんは力持ちなのれす」

 途端、修太郎の胸元にスリスリと額をこすり付けてそんなことを言ってくる日織が可愛くて。


 このままベッドに彼女を連れて行って、果たしてゆっくりと眠らせてあげることが出来るだろうか。

 ――きっと無理でしょうね。

 そんなことを思いながら、修太郎は日織を抱く腕にそっと力を込めた。


    END(2021/08/10)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

処理中です...