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■甘えんぼさん/気まぐれ書き下ろし短編■
ぽやんとした甘えんぼ
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「日織さん?」
日没間近の長く伸びた影を伴った日差しのもと、気が付けば自分のすぐ隣、日織がソファで修太郎の肩に頭を預けるようにしてスヤスヤと眠っていて、修太郎は「さてどうしたものか」と戸惑った。
このままここで寝かせておいたら、目覚めた時に身体のあちこちが痛くなってしまっているかも知れない。
それは可哀想だ。
彼女の身体を倒してしまわないよう気遣いながらそっと立ち上がると、修太郎は愛しい日織の愛らしい寝顔をすぐそばで見下ろした。
「んっ……」
やんわり抱き上げてベッドへ移動させようと伸ばした指先が、滑らかな二の腕に触れた途端、日織が小さく身じろいで、薄らと瞳を開いた。
「しゅ、たろぉさん……?」
寝ぼけているのだろう。
ぼんやりと潤んだ瞳で修太郎を見上げる日織の視線は、どこまでも茫洋として捉えどころがない。
カーテン越しに差し込む茜色の陽光を映してキラキラと黒瞳が揺らめいてはいるけれど、どこか焦点が定まっていないことでそれが分かる。
「日織?」
もう1度日織の顔を覗き込んで、「眠いならベッドに行きしょう?」と声を掛ける。
と、ようやくその目に修太郎の姿を認めたらしい日織が、それでも依然ぽやんとした様相のまま、修太郎に向かって両手を差し伸べてきた。
「しゅうたろぉさんに抱っこして頂きたいのれす……」
しっかりと目が覚めていたら、きっと恥ずかしくて言えないだろうセリフをそのプルンとした唇に乗せて、眼前の修太郎の首筋に日織がギュッとしがみついてくる。
修太郎はそんな日織にフッと柔らかな微笑みを落とすと、「寝ぼけた日織さんは甘えんぼさんですね」と小さくこぼして、眠気でポカポカと体温の高い日織をそっと抱き上げた。
「修太郎しゃんは力持ちなのれす」
途端、修太郎の胸元にスリスリと額をこすり付けてそんなことを言ってくる日織が可愛くて。
このままベッドに彼女を連れて行って、果たしてゆっくりと眠らせてあげることが出来るだろうか。
――きっと無理でしょうね。
そんなことを思いながら、修太郎は日織を抱く腕にそっと力を込めた。
END(2021/08/10)
日没間近の長く伸びた影を伴った日差しのもと、気が付けば自分のすぐ隣、日織がソファで修太郎の肩に頭を預けるようにしてスヤスヤと眠っていて、修太郎は「さてどうしたものか」と戸惑った。
このままここで寝かせておいたら、目覚めた時に身体のあちこちが痛くなってしまっているかも知れない。
それは可哀想だ。
彼女の身体を倒してしまわないよう気遣いながらそっと立ち上がると、修太郎は愛しい日織の愛らしい寝顔をすぐそばで見下ろした。
「んっ……」
やんわり抱き上げてベッドへ移動させようと伸ばした指先が、滑らかな二の腕に触れた途端、日織が小さく身じろいで、薄らと瞳を開いた。
「しゅ、たろぉさん……?」
寝ぼけているのだろう。
ぼんやりと潤んだ瞳で修太郎を見上げる日織の視線は、どこまでも茫洋として捉えどころがない。
カーテン越しに差し込む茜色の陽光を映してキラキラと黒瞳が揺らめいてはいるけれど、どこか焦点が定まっていないことでそれが分かる。
「日織?」
もう1度日織の顔を覗き込んで、「眠いならベッドに行きしょう?」と声を掛ける。
と、ようやくその目に修太郎の姿を認めたらしい日織が、それでも依然ぽやんとした様相のまま、修太郎に向かって両手を差し伸べてきた。
「しゅうたろぉさんに抱っこして頂きたいのれす……」
しっかりと目が覚めていたら、きっと恥ずかしくて言えないだろうセリフをそのプルンとした唇に乗せて、眼前の修太郎の首筋に日織がギュッとしがみついてくる。
修太郎はそんな日織にフッと柔らかな微笑みを落とすと、「寝ぼけた日織さんは甘えんぼさんですね」と小さくこぼして、眠気でポカポカと体温の高い日織をそっと抱き上げた。
「修太郎しゃんは力持ちなのれす」
途端、修太郎の胸元にスリスリと額をこすり付けてそんなことを言ってくる日織が可愛くて。
このままベッドに彼女を連れて行って、果たしてゆっくりと眠らせてあげることが出来るだろうか。
――きっと無理でしょうね。
そんなことを思いながら、修太郎は日織を抱く腕にそっと力を込めた。
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