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■私、まだまだなのですっ■

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 梅雨に入った。

 今年は昨年のような空梅雨ではないらしく、連日のようにシトシトとひっきりなしに雨が続いている。

 部屋干しした洗濯物がなかなか乾かなくて、修太郎しゅうたろう日織ひおりが泊まりにくる週末くらいは、とコインランドリーを利用した。


 その甲斐あって、今日はリビングがいつになくスッキリして見える。

 日織が泊まりに来てくれているから、室内が華やいで見えるのもまたいいな、と修太郎は思っていたりするのだけれど。


「日織さん、どうしたんですか? 浮かない顔をなさって」

 どうも自宅へ迎えに行った時から日織の表情がかんばしくない。

 体調は悪くなさそうなのに一体どうしたのだろうか。

 そのことが心配になった修太郎が問いかければ、日織が眉根を寄せて修太郎を見やった。


「雨が降ると、修太郎さんと仲良しするのが躊躇ためらわれるのですっ」

 それが寂しいのだ、と言いたいらしい。


 まるで予期しなかった斜め上からの返答に、修太郎しゅうたろうは瞳を見開いた。

「え?」

 やや遅れて自分でも間の抜けた返しだと思うような声が出て。


「こんなに雨続きだと、お洗濯物が乾かないでしょう?」

 だから仲良しするのがはばかられるのだと切なく吐息を落とす日織ひおりに、修太郎はそう言えば、と思った。


 日織は自分としとねを共にした翌日は、どんなに激しく責め立てた後でも必ずノロノロと起き出して、シーツを取り替えていた。

 最初のうちこそ操作に戸惑っていた修太郎の家の全自動洗濯機も、今では難なく使いこなしているほどだ。

 修太郎が使っているドラム式の全自動洗濯機には、もちろん乾燥機能だってついている。

 けれど、掛け敷き両方のシーツに加えて枕カバーやタオルなども洗濯した後ともなると、乾燥機の容量を若干オーバーしてしまう。

 だから日織は、いつもベランダに出てシーツを太陽の光と風の力で乾かすのだ。


 2人で夢中になって存分に互いの身体を求めあえば、確かにシーツは汚れてしまう。

 日織ひおりは宿泊期間が済めば自宅に戻るからいいようなものだけれど、そこにそのまま修太郎しゅうたろうを寝かせるなんて考えられないらしい。


 だから、せっかく泊まりに来ても、雨降りだと仲良しをするのが躊躇ためらわれてしまうのだ、と溜め息を落とす。


 だから、だったのだ。

 日織が泊まりの際、やたらと天気予報を気にしたり、シーツをもう数枚買い足しましょうとか言っていたのは。


 そのことに思い至るとあれもこれも全て合点がてんがいって、修太郎は日織のことがますます愛しくてたまらなくなる。



 でも、とその一方で修太郎は思った。
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