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■番外編/『相性がいいみたいなのですっ』

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修太郎しゅうたろうさん、お父様にお願いして、私が家で使っているのと同じグラスを新調して参りましたっ。今夜はこれで飲みましょう♪」

 言って、日織ひおりさんがお泊りセットの中から小箱を取り出した。


 ふたを開けると透明度の高いクリスタルガラスの日本酒グラスがペアで入っていて。
 一緒にヒノキのこぼしますもセットになっていた。

 僕はそれを見て少し戸惑う。

「日織さん、さすがに盛りこぼしはしない……ですよね?」

 グラス自体が100ml入る仕様だ。こぼし酒なんて本格的な飲み方はなさいません、よ、ね?

 牽制けんせいの意味も込めて戸惑いまじりにそう申し上げたら、
「はい。今日やめておきましょう」
 とおっしゃって。

 ホッとしたものの、「今日」という言い方にドキッとした。

 日織さん……家で飲んでいらっしゃるとき、あなたは一体どんな飲み方を……?


 お聞きしたいようなそうでないような、複雑な心境になった。


***

金雀きんすずめ、良い香りなのですっ」

 金雀を開封して、グラスに八分目ぐらいまで入れてから2人で香りを嗅いでみる。

 フルーティーな吟醸香にうっとりなさる日織ひおりさんを見て、僕は目尻が下がる。

 本当、日織さんは何をしてらしても絵になる。


「いただきます」

 まるで仕切り直しのように改めてそうおっしゃると、日織さんがグラスにそっと口を付けた。

 そうしてほんの少し口に含んでいらしてから、驚いたように瞳を見開かれたのが分かった。


「どうなさいました?」

 聞くと、「しゅ、修太郎さんも飲んでみられたら分かるのですっ」と目をキラキラさせる。

 どうしたんだろう?
 そんなに旨かった、ということだろうか?

 そんなことを思いながら、僕はグラスの中身をひとくち口に含んで。

「え……?」

 思わず声が漏れていた。

日織ひおりさん、これ……」

「すごいですよね!? でも、別にスパークリングではないのですっ。――ね!? 驚きましたよね!?」

 確かに。
 日織さんがグラスを傾けた途端、瞳を見開かれた意味が、僕にも分かった。


「僕も金雀きんすずめは初めて飲んだので知りませんでした。これ、なんだか微発泡、ですよね」


 その微かな刺激が、芳醇な吟醸香と相まってキリリとした酸味を感じさせる。でも実際の味はというと、甘みを感じさせつつも、あと口はスッキリと飲みやすい辛口と言った感じ。

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