198 / 233
■番外編/『相性がいいみたいなのですっ』
1
しおりを挟む
あの電話の翌日。
市役所の屋上で、僕は日織さんと2人、ベンチに並んで座っている。
眼下に広がる公園はちょうど桜が満開で、天気もとてもいい。
風が吹くと、それが少し冷たく感じられるけれど、日向にいる分には寒くてたまらないと言うほどではなくて。
シースルーのふんわりした風合いのブラウスに、カーキのフレアスカートを合わせていらっしゃる日織さんは、温度調節のためかな? 上に白いカーディガンを羽織っていらして。
それでも女性は身体を冷やすべきではないという思いから、「寒くないですか?」とお聞きしたら「修太郎さんがいらっしゃるから平気です」と照れ臭そうに微笑まれた。
それは僕が日織さんの風避けになれていると思ったんでいいですか?
それとも……一緒にいるから寒さは感じません、の方ですか?
いずれにせよ、お役に立てているなら光栄です。
***
ブラックのトートバッグから僕用の少し大振りな弁当箱を取り出して渡してくださいながら、
「今日はだし巻き卵に青ネギを入れてみました! 自信作なのですっ!」
そう言って僕を見つめてくる。
日織さんの真剣な眼差しに見つめられながら、僕はワクワクしながら弁当箱のふたを開けた。
今日もとっても色味が鮮やかで食欲をかき立てられる。
「すごく美味しそうです」
感嘆の吐息とともにそうつぶやくと、嬉しそうにえへへ、とおっしゃって。
ご自分もトートバッグから小ぶりな弁当箱を取り出されてふたを開ける。
「持ってくるときに揺らしちゃったので寄ってしまってないか心配だったんですが、無事でホッとしました」
そこで悪戯っぽく微笑んでいらして。
その表情さえもすごく愛らしくて、愛しさに胸がキュッと締め付けられる。
花嫁修行と称してお義母さんやうちの母から料理の手解きを受けている日織さんは、作れるもののレパートリーも随分増えたみたいで。
このところは弁当の中身が全て彼女の手作りだ。
日織さんは案外のめり込むとこだわり派なところがあるので、頑張り過ぎてはいないだろうか?とふと不安になる。
それで、「少しは手抜きして冷食を入れていただいても構わないのですよ?」と言ってみたら、フルフルと首を横に振るんだ。
「作り置きを小分けにして冷凍する術を身につけた日織には、そのようなものは必要ないのです」
どこか芝居めいた仕草と口調でそう言ってから、「見てください。このミートボールのトマト煮も、こっちのインゲンとニンジンの胡麻和えも、作り置きの冷凍をポン!なんですよ!? えっへん」と胸をお張りになる。
そんなに胸を強調されると触りたくなるのですが。
なんて真っ昼間の、それも職場の敷地内で言ったら怒らせてしまうかな?
ダメだ、ダメだ。
数日彼女を抱かなかっただけでこれ。
僕はどれだけ日織さんに対して貪欲なんだろう。
市役所の屋上で、僕は日織さんと2人、ベンチに並んで座っている。
眼下に広がる公園はちょうど桜が満開で、天気もとてもいい。
風が吹くと、それが少し冷たく感じられるけれど、日向にいる分には寒くてたまらないと言うほどではなくて。
シースルーのふんわりした風合いのブラウスに、カーキのフレアスカートを合わせていらっしゃる日織さんは、温度調節のためかな? 上に白いカーディガンを羽織っていらして。
それでも女性は身体を冷やすべきではないという思いから、「寒くないですか?」とお聞きしたら「修太郎さんがいらっしゃるから平気です」と照れ臭そうに微笑まれた。
それは僕が日織さんの風避けになれていると思ったんでいいですか?
それとも……一緒にいるから寒さは感じません、の方ですか?
いずれにせよ、お役に立てているなら光栄です。
***
ブラックのトートバッグから僕用の少し大振りな弁当箱を取り出して渡してくださいながら、
「今日はだし巻き卵に青ネギを入れてみました! 自信作なのですっ!」
そう言って僕を見つめてくる。
日織さんの真剣な眼差しに見つめられながら、僕はワクワクしながら弁当箱のふたを開けた。
今日もとっても色味が鮮やかで食欲をかき立てられる。
「すごく美味しそうです」
感嘆の吐息とともにそうつぶやくと、嬉しそうにえへへ、とおっしゃって。
ご自分もトートバッグから小ぶりな弁当箱を取り出されてふたを開ける。
「持ってくるときに揺らしちゃったので寄ってしまってないか心配だったんですが、無事でホッとしました」
そこで悪戯っぽく微笑んでいらして。
その表情さえもすごく愛らしくて、愛しさに胸がキュッと締め付けられる。
花嫁修行と称してお義母さんやうちの母から料理の手解きを受けている日織さんは、作れるもののレパートリーも随分増えたみたいで。
このところは弁当の中身が全て彼女の手作りだ。
日織さんは案外のめり込むとこだわり派なところがあるので、頑張り過ぎてはいないだろうか?とふと不安になる。
それで、「少しは手抜きして冷食を入れていただいても構わないのですよ?」と言ってみたら、フルフルと首を横に振るんだ。
「作り置きを小分けにして冷凍する術を身につけた日織には、そのようなものは必要ないのです」
どこか芝居めいた仕草と口調でそう言ってから、「見てください。このミートボールのトマト煮も、こっちのインゲンとニンジンの胡麻和えも、作り置きの冷凍をポン!なんですよ!? えっへん」と胸をお張りになる。
そんなに胸を強調されると触りたくなるのですが。
なんて真っ昼間の、それも職場の敷地内で言ったら怒らせてしまうかな?
ダメだ、ダメだ。
数日彼女を抱かなかっただけでこれ。
僕はどれだけ日織さんに対して貪欲なんだろう。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる