【完結】【R18】キス先① あなたに、キスのその先を。

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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■番外編/『相性がいいみたいなのですっ』

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 あの電話の翌日。


 市役所の屋上で、僕は日織ひおりさんと2人、ベンチに並んで座っている。


 眼下に広がる公園はちょうど桜が満開で、天気もとてもいい。

 風が吹くと、それが少し冷たく感じられるけれど、日向にいる分には寒くてたまらないと言うほどではなくて。

 シースルーのふんわりした風合いのブラウスに、カーキのフレアスカートを合わせていらっしゃる日織さんは、温度調節のためかな? 上に白いカーディガンを羽織っていらして。

 それでも女性は身体を冷やすべきではないという思いから、「寒くないですか?」とお聞きしたら「修太郎しゅうたろうさんがいらっしゃるから平気です」と照れ臭そうに微笑まれた。

 それは僕が日織さんの風避けになれていると思ったんでいいですか?
 それとも……一緒にいるから寒さは感じません、の方ですか?

 いずれにせよ、お役に立てているなら光栄です。

***

 ブラックのトートバッグから僕用の少し大振りな弁当箱を取り出して渡してくださいながら、
「今日はだし巻き卵に青ネギを入れてみました! 自信作なのですっ!」
 そう言って僕を見つめてくる。

 日織さんの真剣な眼差しに見つめられながら、僕はワクワクしながら弁当箱のふたを開けた。

 今日もとっても色味が鮮やかで食欲をかき立てられる。

「すごく美味しそうです」

 感嘆の吐息とともにそうつぶやくと、嬉しそうにえへへ、とおっしゃって。

 ご自分もトートバッグから小ぶりな弁当箱を取り出されてふたを開ける。

「持ってくるときに揺らしちゃったので寄ってしまってないか心配だったんですが、無事でホッとしました」

 そこで悪戯っぽく微笑んでいらして。
 その表情さえもすごく愛らしくて、愛しさに胸がキュッと締め付けられる。


 花嫁修行と称してお義母かあさんやうちの母から料理の手解きを受けている日織ひおりさんは、作れるもののレパートリーも随分増えたみたいで。

 このところは弁当の中身が全て彼女の手作りだ。

 日織さんは案外のめり込むとこだわり派なところがあるので、頑張り過ぎてはいないだろうか?とふと不安になる。
 それで、「少しは手抜きして冷食を入れていただいても構わないのですよ?」と言ってみたら、フルフルと首を横に振るんだ。

「作り置きを小分けにして冷凍するすべを身につけた日織には、そのようなものは必要ないのです」

 どこか芝居めいた仕草と口調でそう言ってから、「見てください。このミートボールのトマト煮も、こっちのインゲンとニンジンの胡麻和ごまあえも、作り置きの冷凍をポン!なんですよ!? えっへん」と胸をお張りになる。

 そんなに胸を強調されると触りたくなるのですが。
 なんて真っ昼間の、それも職場の敷地内で言ったら怒らせてしまうかな?

 ダメだ、ダメだ。
 数日彼女を抱かなかっただけでこれ。
 僕はどれだけ日織さんに対して貪欲なんだろう。
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