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■いただいちゃっても、いいですか?■
確かめてみますか?2
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中には、外側とは真逆の印象の、真っ白な箱が入っていて、僕はそのギャップがまた彼女らしいな、とか思ってしまった。
「開けますね」
目隠しをしたままの日織さんにそう告げると、彼女が恐る恐る指の隙間を広げてこちらをご覧になられる。
「――普通に見られて構いませんよ?」
その行動があまりにもツボにハマってしまって、僕はクスクス笑いながら彼女に告げた。
「それ、可愛すぎて押し倒したくなるので、そうされたくないなら――」
おやめになられた方が……と続ける前に、慌てたようにパッと手が開かれて、箱に伸ばしたままの僕の手にそっと触れていらっしゃる。そうして僕の目をじっと見つめながら、フルフルと首を横にお振りになると、
「先に、こっちです」
再度チョコが先だと念押しされてしまった。
「でないと、お部屋の暖かさで溶けてしまいますっ」
日織さんは、少しずつ暖まりつつある部屋の温度が気になっていらっしゃるらしい。
彼女に促されるままに蓋を開けると、甘いチョコレートの匂いと一緒に、濃厚な洋酒の香りが漂った。
「生チョコに、ラム酒をたっぷり入れてみました」
それで、普通のチョコレートよりしっとりしていて溶けやすいのだと日織さんが言う。
「えっと、多分指で直接つままれると手が汚れちゃうと思うので……」
おっしゃって、紙袋の中に取り残されたピックを僕に手渡していらっしゃると、「これで刺して召し上がられてください」と僕の目をじっと見つめていらして。
僕はその視線だけで、年甲斐もなくドキドキしてしまう。
「いただきます」
正方形に小さくカットされたチョコレートをひとかけら口に運ぶと、なるほど、柔らかくてすぐに口の中で解けて消えてしまった。
ビターな味わいで、甘すぎなくてちょうどいい。市販のそう言うチョコレートより、少しお酒が強めかな? 思いながら日織さんを見つめたら、「どっ、どうですかっ?」ととてもソワソワしたご様子で。
その様が小動物みたいで本当に可愛くて、僕は思わず彼女をギュッと抱きしめる。
「とても美味しいですよ? 日織さんも確かめてみますか?」
僕はチョコをもうひとつ口に入れると、そのまま彼女の唇を塞いだ。
舌先で押し出すように、彼女の口の中にチョコを預けると、
「んっ……はぁっ」
日織さんの唇から小さく吐息が漏れて、ややしてコクンと喉が上下した。
「どうですか?」
日織さんの唇を濡らすチョコを舌先で舐めとると、彼女は真っ赤になって俯かれた。
「す、少し……お酒が強すぎた……気が……します」
つぶやく日織さんの吐息からチョコとラム酒の香りが漂って、僕はたまらなくゾクゾクした。
「確かにお酒は強めかもしれませんね。でも、とても大人な味わいで、僕好みです」
言って、
「もうひとつどうぞ」
先ほどと同じことを、僕は日織さんに三度ばかり繰り返した。
――と。
「しゅ、たろ……さん。私、何だかほわほわしましゅ」
トロンと蕩けた目で日織さんが僕を見つめていらして。
呂律の回らないこの感じ。
僕は、初めて彼女をここへお連れした日のことを思い出して、気持ちが昂ってくるのを感じずにはいられない。
「日織、僕はもう少し、貴女の作ってくださったチョコをキミと一緒に味わいたいので……お付き合いいただけますか?」
じっと彼女の目を見つめて問い掛ければ、
「分らりまひた。お付き合いさせれいたらきましゅっ!」
日織さんが、一瞬だけキリッとしたお顔をされて、敬礼をなさった。
本当、彼女は酔うといつもとはまた違った一面を見せてくださるからたまらない。
僕は先程ほんの少し妄想した、チョコまみれの日織さんを思い描いて、シーツの替えを用意しないとな、と思った――。
END(2020/01/27–2020/01/30)
「開けますね」
目隠しをしたままの日織さんにそう告げると、彼女が恐る恐る指の隙間を広げてこちらをご覧になられる。
「――普通に見られて構いませんよ?」
その行動があまりにもツボにハマってしまって、僕はクスクス笑いながら彼女に告げた。
「それ、可愛すぎて押し倒したくなるので、そうされたくないなら――」
おやめになられた方が……と続ける前に、慌てたようにパッと手が開かれて、箱に伸ばしたままの僕の手にそっと触れていらっしゃる。そうして僕の目をじっと見つめながら、フルフルと首を横にお振りになると、
「先に、こっちです」
再度チョコが先だと念押しされてしまった。
「でないと、お部屋の暖かさで溶けてしまいますっ」
日織さんは、少しずつ暖まりつつある部屋の温度が気になっていらっしゃるらしい。
彼女に促されるままに蓋を開けると、甘いチョコレートの匂いと一緒に、濃厚な洋酒の香りが漂った。
「生チョコに、ラム酒をたっぷり入れてみました」
それで、普通のチョコレートよりしっとりしていて溶けやすいのだと日織さんが言う。
「えっと、多分指で直接つままれると手が汚れちゃうと思うので……」
おっしゃって、紙袋の中に取り残されたピックを僕に手渡していらっしゃると、「これで刺して召し上がられてください」と僕の目をじっと見つめていらして。
僕はその視線だけで、年甲斐もなくドキドキしてしまう。
「いただきます」
正方形に小さくカットされたチョコレートをひとかけら口に運ぶと、なるほど、柔らかくてすぐに口の中で解けて消えてしまった。
ビターな味わいで、甘すぎなくてちょうどいい。市販のそう言うチョコレートより、少しお酒が強めかな? 思いながら日織さんを見つめたら、「どっ、どうですかっ?」ととてもソワソワしたご様子で。
その様が小動物みたいで本当に可愛くて、僕は思わず彼女をギュッと抱きしめる。
「とても美味しいですよ? 日織さんも確かめてみますか?」
僕はチョコをもうひとつ口に入れると、そのまま彼女の唇を塞いだ。
舌先で押し出すように、彼女の口の中にチョコを預けると、
「んっ……はぁっ」
日織さんの唇から小さく吐息が漏れて、ややしてコクンと喉が上下した。
「どうですか?」
日織さんの唇を濡らすチョコを舌先で舐めとると、彼女は真っ赤になって俯かれた。
「す、少し……お酒が強すぎた……気が……します」
つぶやく日織さんの吐息からチョコとラム酒の香りが漂って、僕はたまらなくゾクゾクした。
「確かにお酒は強めかもしれませんね。でも、とても大人な味わいで、僕好みです」
言って、
「もうひとつどうぞ」
先ほどと同じことを、僕は日織さんに三度ばかり繰り返した。
――と。
「しゅ、たろ……さん。私、何だかほわほわしましゅ」
トロンと蕩けた目で日織さんが僕を見つめていらして。
呂律の回らないこの感じ。
僕は、初めて彼女をここへお連れした日のことを思い出して、気持ちが昂ってくるのを感じずにはいられない。
「日織、僕はもう少し、貴女の作ってくださったチョコをキミと一緒に味わいたいので……お付き合いいただけますか?」
じっと彼女の目を見つめて問い掛ければ、
「分らりまひた。お付き合いさせれいたらきましゅっ!」
日織さんが、一瞬だけキリッとしたお顔をされて、敬礼をなさった。
本当、彼女は酔うといつもとはまた違った一面を見せてくださるからたまらない。
僕は先程ほんの少し妄想した、チョコまみれの日織さんを思い描いて、シーツの替えを用意しないとな、と思った――。
END(2020/01/27–2020/01/30)
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