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■いただいちゃっても、いいですか?■
確かめてみますか?1
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部屋に入るなりキスをしようとした僕に、日織さんは、「ダメですよ? 今日は先にこっちです!」と言って、眼前に小さな紙袋を押し付けてきた。
ちょっと前までは割と押され弱かった日織さんなのに、最近は結構上手に僕の暴走を止めるようになられた。
とはいえ、ここで再度「僕はキミの方が」と言えば押し切ることが出来るのは重々承知だ。けれど、今回僕は、日織さんの意思を尊重することにする。
日織さんがせっかく僕のために作ってくださったチョコを無下にするのは良くないと思ったからだ。
「とりあえずリビングに行きましょう」
玄関をくぐったと同時にグッと引き寄せた、腰への手はそのままに、日織さんを室内に誘う。
日織さんが歩くと、ふわりと甘い香りが漂って、それが彼女の手にした包みからのものだと分かっていても、僕はついつい彼女自身からその匂いがしているような錯覚に陥ってしまう。
チョコレートを日織さんの白い肌の上で溶かして舐めとったなら、どんなに甘露だろう、とか思ってしまう。
すぐそばでそんな邪な妄想を抱かれているなんて思いもしないんだろう。
ソファに腰掛けた日織さんは、脱いだベレー帽を傍らに置いて、ニコニコとしながら僕に再度小さな紙袋を差し出していらした。
エアコンのスイッチを押して暖房を入れた僕は、リモコンをテーブルに戻してそれを受け取る。
部屋はまだひんやりとしているけれど、日織さんがそばにおられるだけで、温度が二度ぐらい高くなる気がするから不思議だ。
「あのっ、開けてみてくださいっ」
漫画だったら、ワクワクとかソワソワとかいう文字が日織さんの顔の横に入っているだろうな。
そんなことを考えて、思わず笑みがこぼれてしまう。
本当に僕の奥さんは、無邪気で愛らしい。
渡された紙袋の中を覗くと、三十路を過ぎた男が手にするにはかなり恥ずかしい、桃色にハートが散りばめられた包装紙に包まれた、平たい正方形の箱が見えた。
それが、鮮やかな赤いリボンで、いかにも贈り物です!と言った風情できっちりと結えられている。
紙袋から小箱を取り出してリボンを解くと、少し考えて包装紙が破れないように、慎重に包みを開き始める。
こういうときに、包装紙を破り開けてしまえない自分の性格が、男らしくないとか思えてしまったりもするのだけれど、愛しい女性からの贈り物だと思うと、いつも以上に丁寧に開けたくなってしまうのは仕方ないだろう。
僕が丁寧に包みを開けていくのを、日織さんがすぐ横でソワソワした様子で見つめていらっしゃる。
その視線があまりにも真剣で、僕は思わずクスッと笑ってしまった。
「修太郎さん?」
何ら言葉を交わしているわけでもないのに、僕が急に笑ったりしたから、日織さんがきょとんとなさった。
それがまた愛らしくて、僕は口角が上がるのを止められない。
「いや、日織さんがあまりにも真剣に見つめていらっしゃるので、ちと照れ臭くなりまして」
言えば、「ごっ、ごめんなさいっ」と顔を両手で覆ってこちらを見つめないよう努力なさるとか、本当、何て可愛いんでしょうね?
彼女の行動に、心の中では物凄く悶えているくせに、あえて日織さんの仕草には触れず、僕は包みを解くのに集中した。
ちょっと前までは割と押され弱かった日織さんなのに、最近は結構上手に僕の暴走を止めるようになられた。
とはいえ、ここで再度「僕はキミの方が」と言えば押し切ることが出来るのは重々承知だ。けれど、今回僕は、日織さんの意思を尊重することにする。
日織さんがせっかく僕のために作ってくださったチョコを無下にするのは良くないと思ったからだ。
「とりあえずリビングに行きましょう」
玄関をくぐったと同時にグッと引き寄せた、腰への手はそのままに、日織さんを室内に誘う。
日織さんが歩くと、ふわりと甘い香りが漂って、それが彼女の手にした包みからのものだと分かっていても、僕はついつい彼女自身からその匂いがしているような錯覚に陥ってしまう。
チョコレートを日織さんの白い肌の上で溶かして舐めとったなら、どんなに甘露だろう、とか思ってしまう。
すぐそばでそんな邪な妄想を抱かれているなんて思いもしないんだろう。
ソファに腰掛けた日織さんは、脱いだベレー帽を傍らに置いて、ニコニコとしながら僕に再度小さな紙袋を差し出していらした。
エアコンのスイッチを押して暖房を入れた僕は、リモコンをテーブルに戻してそれを受け取る。
部屋はまだひんやりとしているけれど、日織さんがそばにおられるだけで、温度が二度ぐらい高くなる気がするから不思議だ。
「あのっ、開けてみてくださいっ」
漫画だったら、ワクワクとかソワソワとかいう文字が日織さんの顔の横に入っているだろうな。
そんなことを考えて、思わず笑みがこぼれてしまう。
本当に僕の奥さんは、無邪気で愛らしい。
渡された紙袋の中を覗くと、三十路を過ぎた男が手にするにはかなり恥ずかしい、桃色にハートが散りばめられた包装紙に包まれた、平たい正方形の箱が見えた。
それが、鮮やかな赤いリボンで、いかにも贈り物です!と言った風情できっちりと結えられている。
紙袋から小箱を取り出してリボンを解くと、少し考えて包装紙が破れないように、慎重に包みを開き始める。
こういうときに、包装紙を破り開けてしまえない自分の性格が、男らしくないとか思えてしまったりもするのだけれど、愛しい女性からの贈り物だと思うと、いつも以上に丁寧に開けたくなってしまうのは仕方ないだろう。
僕が丁寧に包みを開けていくのを、日織さんがすぐ横でソワソワした様子で見つめていらっしゃる。
その視線があまりにも真剣で、僕は思わずクスッと笑ってしまった。
「修太郎さん?」
何ら言葉を交わしているわけでもないのに、僕が急に笑ったりしたから、日織さんがきょとんとなさった。
それがまた愛らしくて、僕は口角が上がるのを止められない。
「いや、日織さんがあまりにも真剣に見つめていらっしゃるので、ちと照れ臭くなりまして」
言えば、「ごっ、ごめんなさいっ」と顔を両手で覆ってこちらを見つめないよう努力なさるとか、本当、何て可愛いんでしょうね?
彼女の行動に、心の中では物凄く悶えているくせに、あえて日織さんの仕草には触れず、僕は包みを解くのに集中した。
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