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■いただいちゃっても、いいですか?■
どんなのがお好きですか?2
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「ご両親には僕からお伝えしますので」
請えばお許しはいただけるものの、式を済ませるまでは必ず避妊をするというのが暗黙の了解のようになっていて、外泊のお伺いを立てるたびに密かに釘を刺されてしまう。
僕だって、日織さんには好きな衣装を着ていただきたい。
体型のことで制限がかかったり……もしかしたら悪阻なんかでしんどい中での挙式になるようなことは絶対に避けますと、何度も申し上げているのだけれど。
(まあ、それが親心ってやつですかね)
今回も多分言われてしまうだろう。
式自体は、彼女の誕生日の、6月24日に一番近い日曜日――21日――に行う予定だ。式場も、彼女と選んだところをちゃんと押さえてあるし、日取りも大安で申し分ない。
それが済めば、晴れて僕は彼女と一つ屋根の下だ。
(それまでの辛抱、か……)
片思いしてきた期間を思えば、数ヶ月なんてどうってことないはずなのに、どうしてこんなに心がざわついてしまうんだろう。
***
「あ、あのっ。すごくすごく楽しみですっ!」
僕の悶々とした思いなんて知らぬげに、日織さんがにっこりと微笑んだ。
「それで……修太郎さんは、チョコレートはどんなのがお好きですか?」
バレンタインデーにお会いするのだから、そこは外せないのかな?
日織さんが、いきなり僕の方に身を乗り出していらしたので、ドキッとしてしまった。
無意識なんだろう。
身を乗り出された際に、僕の腿にちょこんと乗せられた彼女の小さな手に、否が応でも意識が集中してしまう。
そこから気をそらそうと日織さんの顔に視線を転じれば、とても期待に満ちた目で僕の顔を覗き込んでいらして。ゆらゆらと揺れる、少し色素の薄い瞳。二重瞼のくっきりした大きな切れ込みの中にそれが嵌まっていて、一心不乱に僕を見つめている。そのあまりの美しさに、心臓がうるさいくらい激しく脈打った。
努めて彼女から気をそらせるように目を閉じると、寸の間考えるフリをしてから、
「そうですね。お酒入りのものが好きです」
僕はそうお答えした。
「わかりましたっ。お酒の入ったチョコですねっ」
途端日織さんがスッと身を引いてくださって、僕は心の中でほぉっと小さく吐息を漏らした。
昼休み休憩もあと十分足らずで終わってしまうというこの時間に、彼女を押し倒す羽目にならなかった自分を、褒めてやりたい。
請えばお許しはいただけるものの、式を済ませるまでは必ず避妊をするというのが暗黙の了解のようになっていて、外泊のお伺いを立てるたびに密かに釘を刺されてしまう。
僕だって、日織さんには好きな衣装を着ていただきたい。
体型のことで制限がかかったり……もしかしたら悪阻なんかでしんどい中での挙式になるようなことは絶対に避けますと、何度も申し上げているのだけれど。
(まあ、それが親心ってやつですかね)
今回も多分言われてしまうだろう。
式自体は、彼女の誕生日の、6月24日に一番近い日曜日――21日――に行う予定だ。式場も、彼女と選んだところをちゃんと押さえてあるし、日取りも大安で申し分ない。
それが済めば、晴れて僕は彼女と一つ屋根の下だ。
(それまでの辛抱、か……)
片思いしてきた期間を思えば、数ヶ月なんてどうってことないはずなのに、どうしてこんなに心がざわついてしまうんだろう。
***
「あ、あのっ。すごくすごく楽しみですっ!」
僕の悶々とした思いなんて知らぬげに、日織さんがにっこりと微笑んだ。
「それで……修太郎さんは、チョコレートはどんなのがお好きですか?」
バレンタインデーにお会いするのだから、そこは外せないのかな?
日織さんが、いきなり僕の方に身を乗り出していらしたので、ドキッとしてしまった。
無意識なんだろう。
身を乗り出された際に、僕の腿にちょこんと乗せられた彼女の小さな手に、否が応でも意識が集中してしまう。
そこから気をそらそうと日織さんの顔に視線を転じれば、とても期待に満ちた目で僕の顔を覗き込んでいらして。ゆらゆらと揺れる、少し色素の薄い瞳。二重瞼のくっきりした大きな切れ込みの中にそれが嵌まっていて、一心不乱に僕を見つめている。そのあまりの美しさに、心臓がうるさいくらい激しく脈打った。
努めて彼女から気をそらせるように目を閉じると、寸の間考えるフリをしてから、
「そうですね。お酒入りのものが好きです」
僕はそうお答えした。
「わかりましたっ。お酒の入ったチョコですねっ」
途端日織さんがスッと身を引いてくださって、僕は心の中でほぉっと小さく吐息を漏らした。
昼休み休憩もあと十分足らずで終わってしまうというこの時間に、彼女を押し倒す羽目にならなかった自分を、褒めてやりたい。
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