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■私を優しく包み込んで■

シプレ系

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 修太郎しゅうたろうさんにくっつくと、彼がつけている香水の香りが私にも移ってくる。
 身嗜みだしなみのひとつに香りまで取り入れておられる、そういう修太郎さんのお洒落さに、私は大人の男性の色香を垣間見かいまみてしまう。

「私、修太郎さんの香り、大好きです」
 ともすると、くさいと感じてしまうかもしれない香水を、修太郎さんはほんの少しふわっと香ってくる程度に抑えた上品な使い方をなさる。

 お仕事の日でも休日でも、何かの拍子に思い出したように漂ってくる、その柑橘系に近いような、ウッディーで大人なにおいに、私はいつもときめかされてしまう。

 香りと言うのは不思議なもので、目には見えないけれど確かにそこに存在していて……しかも凄く存在感がある。

「香水の話ですか?」
 腕の中に私を抱きしめたまま、修太郎さんが問いかけていらした。

***

 今日は休日で、私は修太郎さんのお宅へお邪魔していた。
 ここにくるのはあの飲み会後初めてなので、少し緊張している。

 眼鏡を外して裸眼になられた修太郎さんが、ソファに腰掛けて、私においでおいでをなさる。
 そんな彼に恐る恐る近づいたら、手を引っ張られて彼の開いた足の間にストン、と座らされてしまった。
 斜めに引っ張られたので、背中を彼に向けて座ったわけではなくて、横座りみたいに。

 私は座ったはずみで乱れてしまったスカートを慌てて整える。

「こうしているとを思い出しますね」

 言いながら、「もっともあの日、日織ひおりさんは足の間ではなく、僕のももの上に載っていらしたんですが。――今日もそうなさいますか?」と付け加えてクスクスと笑っていらっしゃる。

「そ、それは恥ずかしいです……」
 じかに座れば、彼の肌のぬくもりをより直接的に感じてしまう。それに、何より――。

「日織さんのお尻の感触を味わいたかったのに、残念です」

 だっ、だから無理なんですっ。

 エッチなことをおっしゃる修太郎さんのほうを見上げて、彼を睨みつけようとしたら、あごを捕らえられてそのまま唇をふさがれた。

「んっ」
 未だキスの初動で戸惑ってしまう私に、修太郎さんは優しく角度を変えては浅い口付けを繰り返す。
 私が慣れてきたのを見計らったように、彼の舌が口の中に入ってきた。

 修太郎さんに翻弄ほんろうされながら、その感触を追うように彼の求めに応じているうちに、自然と呼吸が出来るようになる。

 私はまだまだキスが下手だけれど、それでも苦しくて息を詰まらせることはなくなった。

「お上手です」
 私の唇を濡れ光らせる唾液を指先でそっとぬぐわれてから、修太郎さんが満足げに微笑まれた。

***

「私、修太郎さんの香り、大好きです」

 照れ隠しのように、彼の笑顔を見つめながらうっとりとそう言うと、「香水の話ですか?」と問いかけられた。

「僕が使っているのはあれです」
 修太郎さんが指差された先を見ると、黒い小瓶が見えた。
「ブルー ドゥ シャネル?」
 目を凝らして瓶に書かれた文字を追えば、
「よく読めました」
 くしゃくしゃと頭を撫でられた。

「もうっ。子ども扱いは……イヤですっ」

 ぷぅっと頬を膨らませて抗議したら、
「すみません。では、日織さんのお望み通り、大人の扱いをいたしましょう」

 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた修太郎さんに、ソファへ押し倒された。

 私を、修太郎さんがまとうシプレ系の香水が包み込んだ。

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