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*あなたに、キスのその先を。

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 いつの間にか両手はほどかれていて……。修太郎しゅうたろうさんに両胸の先端を服越しにかするように触れられた私は、慌てて胸を覆い隠しました。
 触れなくても分かっていましたが、両腕の下に隠伏いんぷくした胸は固く尖って痛いくらいで……。生地にこすられるだけで声が漏れそうになって、私は懸命に唇を噛みしめました。

(し、下着がない、からっ……?)

 いつも家ではお風呂上がりにブラジャーはしないので……今日もうっかりつけずに出てしまっていました。
 メイクのことで気持ちが動転してしまって、こちらを失念していたのは愚か者としか言いようがありません……。

 寧ろそっちの方を気にするべきでしたのに……。

 どうしましょう。ほんの少しの刺激で、私、どうにかなってしまいそうですっ。

 どうしていいか分からなくてギュッと身体を固くした私の耳元に、修太郎さんが抑えた声音でそっと囁いていらっしゃいます。
日織ひおりさん、そんなに身体を強張らせて……。やはり怖い……ですか?」

 微かに吐息を漏らすように切なくそう言われた私は、一生懸命コクコクとうなずきました。

 もちろん、修太郎さんと一線を越えてしまう覚悟がないわけではありません。
 私だって小さな子供ではありませんし……何より……その、私たちは……夫婦です。
 だから……ちゃんと色々頑張らせていただくつもりではいるのですっ。
 でも……この部屋はとても明るいので……さすがに恥ずかしくて。

「……あの、修太郎さん……」
「――寝室へ行きましょう」
 私がお願いするよりも早く、修太郎さんがそう言って下さって、そんな彼に、私は小さくうなずきました――。

 修太郎しゅうたろうさんにうながされるままに立ち上がろうとした私は、足に力が入らなくてよろめいてしまいました。

 寝室となりへ行くだけですが、それはつまり……その……をするための移動なんだと自覚した途端、恥ずかしさも手伝って身体がふるふると震え出してしまいました。

 これではまるで、生まれたての小鹿です……。

 自分の不甲斐なさに泣きそうな私を、修太郎さんが無言で抱き上げてくださいました。
 彼にお姫様抱っこをされるのは初めてではないですが、今この時ほどの照れ臭いそれを、私は経験したことがありません。

 修太郎さんの腕の中、私は一生懸命胸を覆い隠したまま、それでも視線は彼から外せませんでした。
 Tシャツ越しに伝わってくる修太郎さんの体温が、いつもより高く感じられてしまうのは、私の気のせいでしょうか?

 何だか何もかもが恥ずかしくて……穴があったら入りたい気分です。


 寝室に入ると同時にほんのりとした明度の照明がつけられました。リビングのそれほど明るくはありませんが、真っ暗でもなくて――。
 布団をまくり上げたベッドにそっと下ろされた私は、部屋の明るさと、シーツのひんやりした感触に、ギュッと縮こまります。
 夏なので冷たい感触は寧ろ心地いいはずなのに、明るみの中、横たえられたことが心許こころもとなくて恥ずかしくて――。
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