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一線を越える覚悟

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 例えば……。
 ショートケーキの苺を修太郎しゅうたろうさんがお好きだとしたら……私の分も、「あーん」して差し上げるのですっ。
 きゃー、でもこれ、きっと指をチュッてされちゃいますねっ。

 あとは……。
 修太郎さんの寝顔を見ながら背中をトントンして差し上げたり。
 唇に触れても起きたりなさらないでしょうか? 眠っていらっしゃる隙にキスとか……考えただけでドキドキしますっ。

 それから……。
 これは割りと王道ですけど……修太郎さんの口元についたご飯粒を取って差し上げたり。
 もちろんつまんだのは私が食べちゃうのですっ。
 少女漫画とかでよくある憧れのシチュエーションですっ。大抵男性が女性に、ですが逆だってきっと素敵ですっ!

 ……気がつけば、そんなあれやらこれやらの妄想がぶわりと膨らんでしまって――。

「うふふ。どの修太郎さんも、とっても可愛らしいですっ」

 まだ修太郎さんがそばにいらっしゃるのも忘れて、私は思わずうっとりつぶやいてしまいました。


「――日織ひおりさん?」

 途端、修太郎さんに怪訝けげんそうな声音で呼びかけられて、ハッとしました。

 きゃー、またやっちゃいましたっ!

「ごっ、ごめんなさいっ。ちょっと妄想が暴走を……」
 何だか韻を踏んだ言い訳になってしまいました。

 私の言葉に修太郎さんが一瞬きょとんとなさってから、次いで、声を出して笑っていらして……。

「あ、あの……?」

 オロオロと呼びかけたら、
「貴女といると退屈せずにすみそうです。早く一緒に住める日が来るといいのですが……。――じゃあ、僕はリビングでテレビを観ていますので、ゆっくり汗を流してくださいね」

 い、いま……さらりと気になることを言われた気がします。入籍を済ませたのに……一緒に住めない理由はなんなのでしょう?

 修太郎さんの背中をぼんやりと見送りながら、私は一人小さく首を傾げました。

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