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一線を越える覚悟

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「――? 僕の顔に何かついてますか?」

 わわわ、気づかれてしまいましたっ。

 すぐ横にいらっしゃる修太郎しゅうたろうさんにじっと見つめ返されてしまって、私はタジタジです。

「す、すみませんっ! 何だか修太郎さんの雰囲気がいつもと違っていらっしゃるので、本当に修太郎さんかな?って不安になってしまいました……」

 嘘は通用しない人なので、正直にお話すると、クスクス笑われてしまいました。

「僕は……僕ですよ?」

 そこで先程と同じように額に優しく口付けを落とされました。その感触がいつも通りで、私はホッとして「はい、修太郎さんですね」と微笑み返すことができました。

 さっきまで、初夜のことを考えてソワソワしていた心が、不思議と落ち着いてきて――。

 私はやっぱり修太郎さんが大好きで、彼が与えてくださる言動のひとつひとつでコロコロと心が動いてしまうようです。

***

 お風呂の説明を一通り受けた後で、修太郎さんに、脱衣所入り口ドアについた鍵を掛けるように言われてしまいました。
 お風呂のドアの鍵は実家うちにもありますが、脱衣所にも鍵が掛かるの、ビックリです。最近のマンションはすごいですっ。でも、入浴の際に鍵をかけてしまうと、他の人は洗面所が使えなくなってしまいますね。
 そこまで考えて、お一人住まいの修太郎さんには関係ありませんでした、と思い至る。
 今日みたいに私がこちらにお邪魔することになれば別として……。

「鍵……ですか?」
 キョトンとしてお伺いすると、「僕が覗きたくなってしまうので」と、何故かさわやかににっこり微笑まれてしまいました。本気か冗談か分からない修太郎さんの言動に、私はますます戸惑います。

「何より、その方が日織ひおりさんが落ち着いて入浴できるでしょう?」 

 いざとなったら、コインなどを使えば外側から簡単に開けることができる鍵のようですが、確かに掛けさせていただけると、気持ちが違いそうです。

「お湯も溜めてありますので湯冷めしないように温まって出てきてくださいね」
 そこまで仰ってから、「でも、あまり長湯をして倒れないように」と頭を撫でられました。そういうことをされるたび、修太郎さんはやはり年上の男性なんだ、と実感させられます。

 私が頼りないので仕方ないのですが、いつか私も修太郎さんに甘えていただけるような存在になりたいです。

 そうですね。例えば……。
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