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それぞれの報告
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「ま、まぁ、結果的にはそうなる、か」
絞り出すような声音でそうおっしゃると、天馬氏は私たちの方を向いていらした。
「色々言ったが……わかったよ。わしも、お前たちの意思を尊重しよう。――それでいいな? 宮美、絢乃……さん」
天馬氏が、絢乃さんのことを呼び捨てになさろうとして、一瞬迷われた末に敬称をお付けになられたのが分かった。
「私は修太郎が幸せならそれで構いません」
修太郎さんを優しい目で見つめていらしたあと、うちの両親の方へ向き直られた絢乃さんは、凛とした声音で続けていらした。
「修太郎は神崎と違ってとても一途な子です。必ずやお嬢さんを幸せにするとお約束いたします。歳の差はありますが、どうぞ可愛がってやってください。私も日織さんのこと、実の娘だと思って可愛がらせていただきますので」
そう言って頭をお下げになられる。
私は絢乃さんのその言葉に、思わず瞳が潤んできてしまう。
「こちらこそよろしくお願いします」
両親と一緒に、そう言って絢乃さんにお辞儀をしたら、その拍子に涙がポロリとこぼれ落ちた。
一瞬にして緊張の糸が切れてしまったみたいに、涙腺まで緩んでしまって。
ホロホロと涙があふれては次々に流れるのをどうしようもなくて。
お母様がそれに気づいてそっとハンカチを握らせてくださったけれど、もうそんなので負えるような状態ではないように思えた。
自分もバッグの中にハンカチを忍ばせているけれど、それを出したところで焼け石に水かな。
(どうしようっ)
ホテルでの集まりのあと、同じようになってしまったことを思い出して気持ちばかりが焦ってしまう。
顔を上向けられないままオロオロと考えをめぐらせていたら、
「日織さん」
私の不穏な様子にお気づきになられた修太郎さんが、即座に立ち上がられると、皆さんへ声をおかけになられた。
「すみません。日織さんの体調が優れないようですので、二人で少し風に当たってきます。――あの、藤原さん、お嬢さんをお借りしても?」
一応に私の両親へ許可を取ろうと声をかけられた修太郎さんに、「日織はもう、キミの許婚なのだから、好きにするといいよ」とお父様の声が聞こえて。
私はその言葉の嬉しさに、身体がブワッと熱くなるのを感じた。
(私が修太郎さんの……許婚)
感情がますます昂って、涙がどんどんあふれてきてしまって。
俯いたまま小さく鼻をすすったら、
「立てますか?」
いつの間にか私のすぐ背後に立っていらした修太郎さんに、耳元でそう問いかけられた。
不意をつかれて、彼の声にゾクリと身体を震わせてギュッと目をつぶったら、その隙に頭からふわりと修太郎さんの香りに包まれた。
「え?」
気がつくと、修太郎さんがお脱ぎになられたジャケットが、私を頭からすっぽりと覆っていて。
「失礼……」
その予想外の展開に、わわわっ、と照れまくっている間に、今度は身体が宙に浮かんで、抱き上げられたことを知る。
絞り出すような声音でそうおっしゃると、天馬氏は私たちの方を向いていらした。
「色々言ったが……わかったよ。わしも、お前たちの意思を尊重しよう。――それでいいな? 宮美、絢乃……さん」
天馬氏が、絢乃さんのことを呼び捨てになさろうとして、一瞬迷われた末に敬称をお付けになられたのが分かった。
「私は修太郎が幸せならそれで構いません」
修太郎さんを優しい目で見つめていらしたあと、うちの両親の方へ向き直られた絢乃さんは、凛とした声音で続けていらした。
「修太郎は神崎と違ってとても一途な子です。必ずやお嬢さんを幸せにするとお約束いたします。歳の差はありますが、どうぞ可愛がってやってください。私も日織さんのこと、実の娘だと思って可愛がらせていただきますので」
そう言って頭をお下げになられる。
私は絢乃さんのその言葉に、思わず瞳が潤んできてしまう。
「こちらこそよろしくお願いします」
両親と一緒に、そう言って絢乃さんにお辞儀をしたら、その拍子に涙がポロリとこぼれ落ちた。
一瞬にして緊張の糸が切れてしまったみたいに、涙腺まで緩んでしまって。
ホロホロと涙があふれては次々に流れるのをどうしようもなくて。
お母様がそれに気づいてそっとハンカチを握らせてくださったけれど、もうそんなので負えるような状態ではないように思えた。
自分もバッグの中にハンカチを忍ばせているけれど、それを出したところで焼け石に水かな。
(どうしようっ)
ホテルでの集まりのあと、同じようになってしまったことを思い出して気持ちばかりが焦ってしまう。
顔を上向けられないままオロオロと考えをめぐらせていたら、
「日織さん」
私の不穏な様子にお気づきになられた修太郎さんが、即座に立ち上がられると、皆さんへ声をおかけになられた。
「すみません。日織さんの体調が優れないようですので、二人で少し風に当たってきます。――あの、藤原さん、お嬢さんをお借りしても?」
一応に私の両親へ許可を取ろうと声をかけられた修太郎さんに、「日織はもう、キミの許婚なのだから、好きにするといいよ」とお父様の声が聞こえて。
私はその言葉の嬉しさに、身体がブワッと熱くなるのを感じた。
(私が修太郎さんの……許婚)
感情がますます昂って、涙がどんどんあふれてきてしまって。
俯いたまま小さく鼻をすすったら、
「立てますか?」
いつの間にか私のすぐ背後に立っていらした修太郎さんに、耳元でそう問いかけられた。
不意をつかれて、彼の声にゾクリと身体を震わせてギュッと目をつぶったら、その隙に頭からふわりと修太郎さんの香りに包まれた。
「え?」
気がつくと、修太郎さんがお脱ぎになられたジャケットが、私を頭からすっぽりと覆っていて。
「失礼……」
その予想外の展開に、わわわっ、と照れまくっている間に、今度は身体が宙に浮かんで、抱き上げられたことを知る。
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