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それぞれの報告

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神崎かんざきさん」

 今までずっと黙っておられたお父様が不意に口を開かれて、私はドキッとしてしまう。

 恐る恐るお母様越しに、わずか見え隠れするお父様を見やると、思いのほか穏やかなお顔をしていらして、少しホッとする。

「私は昨夜娘から修太郎しゅうたろうくんへの想いを聞きました。修太郎くんの娘への想いもしっかりと確認させてもらっているつもりです。その上で、私たち夫婦は修太郎くんと娘を応援しようという結論に達しました」

 お父様の言葉に、天馬てんま氏が思わず腰を浮かせる。

 お父様はそれを穏やかな笑顔と所作で制すると、「修太郎くんの娘への気持ちは我々が何か言ってどうこうできるレベルじゃありませんよ。彼はなかなかに芯の通った青年のようです。一度こうと決めたら曲げないところなんて、正直神崎さん、あなたそっくりじゃないですか。それに――」

 そこで健二けんじさんと佳穂かほさんに視線を転じていらっしゃると、「相手は入れ替わってしまったかもしれませんが、二人とも神崎さんが推した女性を伴侶はんりょに選んだんでしょう? 何か問題がありますか?」とおっしゃった。

「そ、それは――」
 天馬氏はまだ何か言いたげに口を何度か開いたり閉じたりなさったけれど、この場には一人もご自身の味方はいないと気付かれたのか、結局口を閉ざしてしまわれた。


「ところで――。一連の経緯は健二くんの采配さいはいだったのかな?」

 天馬氏が何もおっしゃらないと判断なさったのか、お父様は健二さんの方へ身体の向きを変えて話しかける。

「え?」
 それに対して、健二さんは質問の意味をはかりかねたのか、そう問いかけしていらして。

「健二くんは知っていたんだろう? キミのお兄さんが日織ひおりのことをずっと想い続けてくれていたことを」

 お父様がそうおっしゃると、健二さんは合点がてんがいったようにうなずかれた。

「はい。知っていました。実際とても分かりやすかったので。……だから俺は」
「お兄さんのために一肌脱いでくれたんだね」

 市役所へ私を引き入れてくださったこと、修太郎さんのそばに私を置いてくださったこと、そういう諸々もろもろを指しての会話だと判ずる。

 修太郎さんからは叱られてしまったあれこれだけれども、お父様は少し違う意見をお持ちのようで。

「健二くん。キミはうちの娘との縁談をただ白紙に戻すだけでも良かっただろうに。色々と手を尽くしてくれて、本当にありがとう。娘が今幸せなのは健二くんのお陰だと、私は思っているよ」

 天馬氏にとってはちっとも面白くない、許婚いいなずけ入れ替わり問題だけれども、うちの父にとってはみんなが幸せになれたこと、もっというと私が幸せになれたことこそが、最も大切なことだとおっしゃって。

「私とお父上をてのひらで転がして自分の目的を遂行すいこうするとは。さすが神崎さんの跡目あとめだ。なかなかどうして、健二くんは立派な策士じゃないですか。――神崎さんもそう思われるでしょう?」

 お父様がそう言ってご自身の方へ微笑みかけていらしたから、天馬氏はうなずくしかなかったんだと思います。
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