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私の好きな人

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「思えば修太郎しゅうたろうくんはお前が幼い頃からずっとお前のことを気にかけてくれていたからね。しかし……そうか。あれは――そういうわけだったのか」

 健二けんじくんから、「兄が日織ひおりさんのことをとても気にしていましてね」と事あるごとに言われていたのだとお父様はおっしゃった。

 それで、私を臨職りんしょくに出す時にも、お父様から働きかけて神崎かんざきさんに修太郎さんを私の後見人に、と推してみたのだと。

 私のことを気にかけてくださっている修太郎さんなら、私を守ってくださると思われたのだとか。

(相変わらずお父様は過保護です……)

 そのお話をお聞きしたら何だか恥ずかしくなってしまった。
 分かっていたけれど、私は本当に温室育ちだ。

「そうすると、日織と修太郎くんがそんな風になってしまったのには、私と神崎さんが一枚噛んでいたということになるのか」

 日織と健二くんをバックアップするつもりで、違うところの後押しをしてしまっていたんだな、と小声で付け加えていらっしゃるのへ、「ごめんなさい」としゅんとしたら、「日織、謝る必要なんてないんだよ?」と言われた。

「前にも言ったと思うが、私も母さんも日織が本当にしたいことがあるならそれを応援したいと思っている。結婚にしてもそうだ。幼い頃からお前にプレッシャーを与えてしまっていたのかも知れんが……お前にその気がないのにとつがせるような横暴はしないつもりだよ。ましてや――」

 そこで言葉を区切られると、お父様は私をじっと見つめていらした。

「健二くんも、お前のことを想ってくれているようには見えないしね」

 一応立場上、私のことを許婚いいなずけとして扱ってくれている節ではあったけれど、そこに愛情があるかというとはなはだ疑問に感じていたのだ、とお父様はおっしゃった。
 当人同士がその気にならないのに、神崎かんざきさんへの義理だけで話を進めていいものか、お父様とお母様はずっと迷っていらしたらしい。

「それに……どちらかと言うとね」
 そこでふっと笑みを浮かべると、お父様はお母様と顔を見合わせてうなずき合われて。

「お前を役所に預けてからの修太郎くんからの報告の方がまめなくらいで。私も母さんも実は驚かされていたんだ」

 知りませんでした。修太郎さんが私のことを両親に報告なさっていらしたなんて。

 お父様は立ち上がって応接室を出られると、ややして封書の束を手に戻っていらした。

「見るかい?」
 お父様から差し出されるままにそれを受け取って、束ねてある紐を解くと、何通もの分厚ぶあついお手紙で。

「修太郎さんの、字……」
 中身を取り出してみなくても宛名書きで分かります。それは、まぎれもなく、いつもお仕事の時に見慣れた修太郎さんの筆跡で。

「中を拝見しても?」
 恐る恐るお父様におうかがいを立てると、何故か「日織が恥ずかしくなければね」と笑みを浮かべて申し添えられてしまった。

「え?」
 思わず間の抜けた声を発してしまってから、私は恐る恐る封書の中身を引っ張り出す。

 深呼吸をしながら畳まれた便箋を広げてみると……。

 右上に日付が付されていて、私がその日何をしたのかが紙一面にビッシリ事細かくしたためられていた。
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