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私の好きな人

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 健二けんじさんが動いてくださることになってから、話がとんとん拍子で進んでいった。

 やはり宮美みやびさんは実子でいらっしゃる健二さんも関係のあることだと言われたら気持ちが変わってくださったらしくて。

 ホッとしたのと同時に、修太郎しゅうたろうさんの幼少期の淋しさを垣間見せられてしまった気がして、私は悲しい気持ちになる。

「僕が義母ははに懐かなかったのが悪いんですよ」

 今はそう思えるんですけど、あの頃はそんな風に割り切って考えることは出来なかったので、と苦笑なさる修太郎さんに、私は上手くお答えすることができなくて、それがまたもどかしかった。

***

日織ひおり、明日の集まりではお前、健二くんとの仲を清算するつもりなんだろう?」

 会合の前日の夜――。

 お父様から応接室に呼ばれて、両親の前に座らされてしまった。

 ピリピリとした空気に、正座したももの上にそろえた両手を所在なく何度も組み替え、組み替えしていたら、お父様が静かな声音でそう問いかけていらした。

「え……?」
 いきなり核心をついたことを言われた私は、瞳を見開いて固まってしまう。

「ほかに好きな男ができたのか?」

 私の返事を待たず、ゆっくりと続けられたそのお言葉に、私はハッとしてお父様を見つめた。

「どうしてそれを……?」

 思わず言ってしまってから、あ、と口を押さえたけれど後の祭りで。

「やっぱり!」
 そうおっしゃって私に優しい目を向けてくださったのは、お父様ではなくお母様だった。
 お父様はお母様の乱入に、まるで道を譲るように口をつぐまれてしまった。

「そんな気がしていたのよ。今まで興味も持たなかった携帯を持ちたいって言ったり、お出かけ前に鏡の前で長いこと身嗜みだしなみを確認したり。――あなたの想い人は職場にいらっしゃるの?」
 お母様は私をとがめていらしている風ではなくて……。ただ純粋に私が好きになった方のことを知りたいだけみたいだった。

 お父様が「話してご覧」と促すように頷いていらしたので、私は思い切って打ち明ける。

「あの……。私がおしたいしているのは……健二さんの……お兄様です」
 緊張で身体が震えるのを一生懸命押さえながら、お父様とお母様のお顔を交互に見つめる。

 すると、お二人がふっと優しいお顔になられた。

修太郎しゅうたろうくんか」
 ややしてお父様が修太郎さんのお名前を出されて、私はそれだけでドキドキしてしまった。

「日織、あなた、彼の名前をお聞きしただけで真っ赤になるのね」
 お母様が私の方へ近づいていらして、頭を撫でてくださる。

「は、はい……っ。わ、私。自分でもどうしたらいいか分からないくらい修太郎さんが好きなんです」

 ハッキリとそう申し上げたら、お父様が瞳を見開かれた。


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