92 / 233
私の好きな人
1
しおりを挟む
健二さんが動いてくださることになってから、話がとんとん拍子で進んでいった。
やはり宮美さんは実子でいらっしゃる健二さんも関係のあることだと言われたら気持ちが変わってくださったらしくて。
ホッとしたのと同時に、修太郎さんの幼少期の淋しさを垣間見せられてしまった気がして、私は悲しい気持ちになる。
「僕が義母に懐かなかったのが悪いんですよ」
今はそう思えるんですけど、あの頃はそんな風に割り切って考えることは出来なかったので、と苦笑なさる修太郎さんに、私は上手くお答えすることができなくて、それがまたもどかしかった。
***
「日織、明日の集まりではお前、健二くんとの仲を清算するつもりなんだろう?」
会合の前日の夜――。
お父様から応接室に呼ばれて、両親の前に座らされてしまった。
ピリピリとした空気に、正座した腿の上に揃えた両手を所在なく何度も組み替え、組み替えしていたら、お父様が静かな声音でそう問いかけていらした。
「え……?」
いきなり核心をついたことを言われた私は、瞳を見開いて固まってしまう。
「ほかに好きな男ができたのか?」
私の返事を待たず、ゆっくりと続けられたそのお言葉に、私はハッとしてお父様を見つめた。
「どうしてそれを……?」
思わず言ってしまってから、あ、と口を押さえたけれど後の祭りで。
「やっぱり!」
そうおっしゃって私に優しい目を向けてくださったのは、お父様ではなくお母様だった。
お父様はお母様の乱入に、まるで道を譲るように口をつぐまれてしまった。
「そんな気がしていたのよ。今まで興味も持たなかった携帯を持ちたいって言ったり、お出かけ前に鏡の前で長いこと身嗜みを確認したり。――あなたの想い人は職場にいらっしゃるの?」
お母様は私を咎めていらしている風ではなくて……。ただ純粋に私が好きになった方のことを知りたいだけみたいだった。
お父様が「話してご覧」と促すように頷いていらしたので、私は思い切って打ち明ける。
「あの……。私がお慕いしているのは……健二さんの……お兄様です」
緊張で身体が震えるのを一生懸命押さえながら、お父様とお母様のお顔を交互に見つめる。
すると、お二人がふっと優しいお顔になられた。
「修太郎くんか」
ややしてお父様が修太郎さんのお名前を出されて、私はそれだけでドキドキしてしまった。
「日織、あなた、彼の名前をお聞きしただけで真っ赤になるのね」
お母様が私の方へ近づいていらして、頭を撫でてくださる。
「は、はい……っ。わ、私。自分でもどうしたらいいか分からないくらい修太郎さんが好きなんです」
ハッキリとそう申し上げたら、お父様が瞳を見開かれた。
やはり宮美さんは実子でいらっしゃる健二さんも関係のあることだと言われたら気持ちが変わってくださったらしくて。
ホッとしたのと同時に、修太郎さんの幼少期の淋しさを垣間見せられてしまった気がして、私は悲しい気持ちになる。
「僕が義母に懐かなかったのが悪いんですよ」
今はそう思えるんですけど、あの頃はそんな風に割り切って考えることは出来なかったので、と苦笑なさる修太郎さんに、私は上手くお答えすることができなくて、それがまたもどかしかった。
***
「日織、明日の集まりではお前、健二くんとの仲を清算するつもりなんだろう?」
会合の前日の夜――。
お父様から応接室に呼ばれて、両親の前に座らされてしまった。
ピリピリとした空気に、正座した腿の上に揃えた両手を所在なく何度も組み替え、組み替えしていたら、お父様が静かな声音でそう問いかけていらした。
「え……?」
いきなり核心をついたことを言われた私は、瞳を見開いて固まってしまう。
「ほかに好きな男ができたのか?」
私の返事を待たず、ゆっくりと続けられたそのお言葉に、私はハッとしてお父様を見つめた。
「どうしてそれを……?」
思わず言ってしまってから、あ、と口を押さえたけれど後の祭りで。
「やっぱり!」
そうおっしゃって私に優しい目を向けてくださったのは、お父様ではなくお母様だった。
お父様はお母様の乱入に、まるで道を譲るように口をつぐまれてしまった。
「そんな気がしていたのよ。今まで興味も持たなかった携帯を持ちたいって言ったり、お出かけ前に鏡の前で長いこと身嗜みを確認したり。――あなたの想い人は職場にいらっしゃるの?」
お母様は私を咎めていらしている風ではなくて……。ただ純粋に私が好きになった方のことを知りたいだけみたいだった。
お父様が「話してご覧」と促すように頷いていらしたので、私は思い切って打ち明ける。
「あの……。私がお慕いしているのは……健二さんの……お兄様です」
緊張で身体が震えるのを一生懸命押さえながら、お父様とお母様のお顔を交互に見つめる。
すると、お二人がふっと優しいお顔になられた。
「修太郎くんか」
ややしてお父様が修太郎さんのお名前を出されて、私はそれだけでドキドキしてしまった。
「日織、あなた、彼の名前をお聞きしただけで真っ赤になるのね」
お母様が私の方へ近づいていらして、頭を撫でてくださる。
「は、はい……っ。わ、私。自分でもどうしたらいいか分からないくらい修太郎さんが好きなんです」
ハッキリとそう申し上げたら、お父様が瞳を見開かれた。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる