上 下
75 / 233
あの時の彼

2

しおりを挟む
***

 そこまでお話をうかがったところで、デザートがやってくる。

 食べ終わった食器類が下げられて、代わりに運ばれてきたのは、
「タルトタタンでございます」

 各々の前に、飴色に光るりんごのお菓子が並べられた。


「美味しそうね」
 佳穂かほさんが健二けんじさんと顔を見合わせてにっこり笑われる。

「私と健二のことは気にしなくていいから二人でしっかり話してね?」

 ちょうど話が中断されたタイミングを見計って、佳穂さんがおっしゃる。私はこくりとうなずいた。

「ありがとうございます」

 修太郎しゅうたろうさんもお二人を見て軽く首肯しゅこうなさってから、「日織ひおりさん、僕たちも少し食べてから話しましょう。とても美味しそうですよ」とおっしゃった。

 内容的に食べながら話すようなライトなお話には思えなかったので、私は「はい」とお答えした。

 みんながデザートを食べ終わると、食後の飲み物が運ばれてくる。

 私以外の皆様はホットコーヒーを、私だけミルクティーをお願いしていた。

 珈琲を一口飲まれた修太郎さんさんが、健二さんをちらりと見られた後、先ほどのお話の続きを話し始められる。

「僕があの家をお役御免やくごめんになれたのは、健二が生まれてくれたからです」

 天馬てんま氏と宮美みやびさんの間に男の子である健二さんが生まれ、父親や義母に反抗的だった修太郎さんは、やっと一人で暮らしておられた絢乃さんお母様のもとへ送り出してもらえることになったらしい。

 修太郎さんは、まだとおにも満たない幼い身で、実母お母さまと引き離されていらしたんだと思うと、胸がちくりと痛んだ。

 私は紅茶のカップをソーサーに戻すと、修太郎さんをじっと見つめた。

「僕は母のもとに引き取られてすぐ、戸籍を神崎から抜いて、母の籍の塚田に入れてもらいました」

 修太郎さんと健二さんがご兄弟なのに苗字が違っていらっしゃるのは……そういう経緯があったのだ、と思った。

 生まれていらした九つ年下の弟さんを可愛いと思う一方で、修太郎さんは絢乃さんお母様ないがしろになさったお父様のことをどうしても許すことが出来なかった、とおっしゃった。

「母と離婚してすぐに宮美さんと再婚した父を見て、僕は父親のことを汚い人間だと、そう思いました。一人の女性も幸せに出来ないような男が政治家だなんて笑わせる、と。今思えば男女のことなので、父が一方的に悪かったわけではないのかもしれない、とも思えるようにはなったんですけど」

 そうおっしゃって淡く微笑まれる修太郎さんがとても寂しそうで……。

 私は思わず修太郎さんの手を握った。

「無理にご自分を納得させようとなさる必要はないと思うのです」

 それ以上の言葉をつむげば、健二さんのお母様や、お二人のお父様を非難することにもなりかねないので、多くは申し上げなかった。けれど、修太郎さんは私の意をんでくださったらしい。

 私の手にご自身の手を重ねられると「ありがとう」と微笑まれた。

 うちも亭主関白に見える家庭だけれど……それでも両親は離婚などすることなく仲睦まじくしているイメージで。

 だからこそ、ご両親が上手くいかずに別れてしまった修太郎さんの本心は私には計り知れない。

 でも。
 でも……修太郎さんがお辛いと思っていらっしゃるなら、寄り添うことぐらいは出来るかもしれないから。

(私、修太郎さんの傍にいたいのです)

 修太郎さんと手を握り合いながら、私ははそんな風に思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】私を乱す彼の指~お隣のイケメンマッサージ師くんに溺愛されています~【完結】

衣草 薫
恋愛
朋美が酔った勢いで注文した吸うタイプのアダルトグッズが、お隣の爽やかイケメン蓮の部屋に誤配されて大ピンチ。 でも蓮はそれを肩こり用のマッサージ器だと誤解して、マッサージ器を落として壊してしまったお詫びに朋美の肩をマッサージしたいと申し出る。 実は蓮は幼少期に朋美に恋して彼女を忘れられず、大人になって朋美を探し出してお隣に引っ越してきたのだった。 マッサージ師である蓮は大好きな朋美の体を施術と称して愛撫し、過去のトラウマから男性恐怖症であった朋美も蓮を相手に恐怖症を克服していくが……。 セックスシーンには※、 ハレンチなシーンには☆をつけています。

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

【R18】優しい嘘と甘い枷~もう一度あなたと~

イチニ
恋愛
高校三年生の冬。『お嬢様』だった波奈の日常は、両親の死により一変する。 幼なじみで婚約者の彩人と別れなければならなくなった波奈は、どうしても別れる前に、一度だけ想い出が欲しくて、嘘を吐き、彼を騙して一夜をともにする。 六年後、波奈は彩人と再会するのだが……。 ※別サイトに投稿していたものに性描写を入れ、ストーリーを少し改変したものになります。性描写のある話には◆マークをつけてます。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】【R18短編】その腕の中でいっそ窒息したい

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
私立大学の三年生である辻 朱夏《つじ あやか》は大層な美女である。 しかし、彼女はどんな美形に言い寄られてもなびかない。そんなこともあり、男子学生たちは朱夏のことを『難攻不落』と呼んだ。 だけど、朱夏は実は――ただの初恋拗らせ女子だったのだ。 体育会系ストーカー予備軍男子×筋肉フェチの絶世の美女。両片想いなのにモダモダする二人が成り行きで結ばれるお話。 ◇hotランキング入りありがとうございます……! ―― ◇初の現代作品です。お手柔らかにお願いします。 ◇5~10話で完結する短いお話。 ◇掲載先→ムーンライトノベルズ、アルファポリス、エブリスタ

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

処理中です...