74 / 233
あの時の彼
1
しおりを挟む
修太郎さんの言葉に、私は固まってしまう。
(幼い私に、修太郎さんが絵本を読み聞かせてくださった……?)
そこでふと、断片的に時折フラッシュバックする、穏やかなお声のお兄さんを思い出す。
私が本好き――ひいては夢見がち――になったのは、その人の影響だった。
過日、彼が読んでくれたお話は、どれもとても楽しくて、キラキラと輝いて感じられた。
幼い私はそのお兄さんのお膝の上で、「次は?」「次は?」とワクワクしながら何冊もの本をせがんでは読んでいただいたのだ。
彼は、小さい子供のワガママだと聞き流すことなく、優しく微笑んで、乞われるままに何冊も何冊も読んでくださって。
4歳の私には、少し難しかったかもしれないイラストのないようなお話も、彼が読んでくださると、不思議と情景が目に浮かんで臨場感に溢れた。
それは、多分読みながら時折私が座る膝を揺すってくださったり、私を高く抱き上げてくださったり……そういう工夫を凝らしていただけたからだと思う。
『しゅーおにいちゃん、だいすき!』
頭の中に、幼い頃の自分の声が聞こえてきて、私は瞳を見開いた。
「しゅーおにいちゃん……」
茫然と私が呟いた一言に、修太郎さんがハッとして私を見つめていらして。
「日織さん、まさか覚えて……?」
(私、何故、今まで思い出せなかったの……?)
修太郎さんと市役所で初めてお会いした時、私は修太郎さんのお声を聴いて、何て心地よい声をした方なんだろう、と思った。確かにあの時、私は幼い頃に読み聞かせをして下さったお兄さんのことも思い出したのだ。
なのに、繋がらなかった。
それに、修太郎さんの眼鏡を外されたお顔。彼の裸眼のお顔に、何度か既視感を覚えたことがあったのを思い出して、私は修太郎さんをじっと見つめた。
「修太郎さん、あの、その頃は眼鏡……」
恐る恐る問えば、
「かけていませんでした」
と返ってきて。
私はそろそろと両手を伸ばすと、修太郎さんのお顔から眼鏡を取る。
こうして見つめると、確かに修太郎さんはあの夏の日の〝しゅーおにいちゃん〟で。
「ごめんなさい。私、なんで今まで……」
思い出せなかったことが、とても恥ずかしくて情けなくて……。
私は修太郎さんのお顔を見つめたまま動けなくなった。
「仕方ないですよ。あのころ貴女はまだたったの4歳でしたから」
修太郎さんと私の年齢差は13歳。とすれば、当時彼は17歳だったということで。
年齢のお話になった途端、修太郎さんが申し訳なさそうなお顔でうつむかれた。
「気持ち悪いですよね。17の男が4歳の女の子に心奪われてしまった、とか……」
それは世間的にはロリータコンプレックスとか幼女趣味だとか言うのだと思ってしまって、修太郎さんはずっとその気持ちを封印し続けていたのだとおっしゃった。
「それに、どんなに可愛い、好きだ、と思っていても、日織さんは健二の許婚だ。僕にどうこうできるものではないと自分に言い聞かせていました」
お二人のお父様でいらっしゃる神崎天馬氏は、修太郎さんが7歳の頃に、健二さんのお母様でいらっしゃる宮美さんと再婚なさったそうで。
修太郎さんはその少し前に離縁された実母の絢乃さんとともに生家を出たかったけれど、大事な跡取りということで、許してはいただけなかったらしい。
(幼い私に、修太郎さんが絵本を読み聞かせてくださった……?)
そこでふと、断片的に時折フラッシュバックする、穏やかなお声のお兄さんを思い出す。
私が本好き――ひいては夢見がち――になったのは、その人の影響だった。
過日、彼が読んでくれたお話は、どれもとても楽しくて、キラキラと輝いて感じられた。
幼い私はそのお兄さんのお膝の上で、「次は?」「次は?」とワクワクしながら何冊もの本をせがんでは読んでいただいたのだ。
彼は、小さい子供のワガママだと聞き流すことなく、優しく微笑んで、乞われるままに何冊も何冊も読んでくださって。
4歳の私には、少し難しかったかもしれないイラストのないようなお話も、彼が読んでくださると、不思議と情景が目に浮かんで臨場感に溢れた。
それは、多分読みながら時折私が座る膝を揺すってくださったり、私を高く抱き上げてくださったり……そういう工夫を凝らしていただけたからだと思う。
『しゅーおにいちゃん、だいすき!』
頭の中に、幼い頃の自分の声が聞こえてきて、私は瞳を見開いた。
「しゅーおにいちゃん……」
茫然と私が呟いた一言に、修太郎さんがハッとして私を見つめていらして。
「日織さん、まさか覚えて……?」
(私、何故、今まで思い出せなかったの……?)
修太郎さんと市役所で初めてお会いした時、私は修太郎さんのお声を聴いて、何て心地よい声をした方なんだろう、と思った。確かにあの時、私は幼い頃に読み聞かせをして下さったお兄さんのことも思い出したのだ。
なのに、繋がらなかった。
それに、修太郎さんの眼鏡を外されたお顔。彼の裸眼のお顔に、何度か既視感を覚えたことがあったのを思い出して、私は修太郎さんをじっと見つめた。
「修太郎さん、あの、その頃は眼鏡……」
恐る恐る問えば、
「かけていませんでした」
と返ってきて。
私はそろそろと両手を伸ばすと、修太郎さんのお顔から眼鏡を取る。
こうして見つめると、確かに修太郎さんはあの夏の日の〝しゅーおにいちゃん〟で。
「ごめんなさい。私、なんで今まで……」
思い出せなかったことが、とても恥ずかしくて情けなくて……。
私は修太郎さんのお顔を見つめたまま動けなくなった。
「仕方ないですよ。あのころ貴女はまだたったの4歳でしたから」
修太郎さんと私の年齢差は13歳。とすれば、当時彼は17歳だったということで。
年齢のお話になった途端、修太郎さんが申し訳なさそうなお顔でうつむかれた。
「気持ち悪いですよね。17の男が4歳の女の子に心奪われてしまった、とか……」
それは世間的にはロリータコンプレックスとか幼女趣味だとか言うのだと思ってしまって、修太郎さんはずっとその気持ちを封印し続けていたのだとおっしゃった。
「それに、どんなに可愛い、好きだ、と思っていても、日織さんは健二の許婚だ。僕にどうこうできるものではないと自分に言い聞かせていました」
お二人のお父様でいらっしゃる神崎天馬氏は、修太郎さんが7歳の頃に、健二さんのお母様でいらっしゃる宮美さんと再婚なさったそうで。
修太郎さんはその少し前に離縁された実母の絢乃さんとともに生家を出たかったけれど、大事な跡取りということで、許してはいただけなかったらしい。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる