71 / 233
佳穂さん
6
しおりを挟む
佳穂さんは、ご自身の方を向かれた健二さんの頬に軽く手を添えられると、当然のようにその唇をお塞ぎになられて。
「……なっ、お前っ」
これにはさすがに健二さんも驚かれたみたいで、佳穂さんが離れたと同時に、いきなり奪われた唇を押さえて真っ赤になられる。
「てぃ、TPOをわきまえろっ」
言いながらも、それはキスされたことが嫌だという感じではなくて……、こういう場でいきなりそんなことをされてしまったことを照れていらっしゃる感じだった。
「あら? だって健二。口でいくら言うよりこの方が手っ取り早いじゃない」
ペロッと舌をお出しになると、佳穂さんがとても楽しそうにクスクス笑う。
「……この、酔っ払い女っ」
健二さんが吐き捨てるようにそうおっしゃるのをクスクス笑いながら受けて、「私がこのぐらいじゃ酔わないの、健二が一番知ってるでしょうに」と畳み掛ける。
「佳穂、健二、お前ら……」
と、横合いから今まで無言だった修太郎さんの驚いた声がして。
どうやら修太郎さんもお二人のことはご存知なかったみたいで、呆然とつぶやかれたそのお声に私も驚く。
あぁ、そういうことだったのか、と修太郎さんが合点がいったように独り言を吐き出されたのをお聞きして、私はやっと声を出すことが出来るようになった。
「あ、あの……」
私はお二人のキスを見て、何故か照れてしまって――多分それは日頃は余裕綽々な健二さんの照れる姿を目の当たりにしてしまったことも影響していると思う――、声を発してはみたものの、しどろもどろになってしまう。
やっとしぼり出した呼びかけにしても、健二さんへ向けたものなのか、佳穂さんへ向けたものなのか自分でも分からなくて。言いさしたまま、次の句がつげなくて止まってしまう。
「日織ちゃん、修太郎。私と健二はね、ご覧の通り付き合ってるの」
言葉足らずな私の意図を汲まれたように、健二さんの腕にご自身のそれを絡めると、佳穂さんは「お似合いの二人でしょう?」と胸をお張りになる。
佳穂さんに腕を捕らえられた健二さんが困り顔をなさっているのが印象的で。
でも、すぐに諦めたように溜め息混じりに「前に日織さんにも話したと思うんですけど、俺、はっきりした女が好きなんです」と苦笑なさる。
(そういえば、前に電話でそのようなことをおっしゃられていたのですっ!)
と思い出した私は、
(あれは……佳穂さんのことだったのですね)
今更のように健二さんの言葉の真意を知ることになった。
「外野の目論見なんて知ったこっちゃないわ。大体私と修太郎を……っていうのだって、その方が年齢が釣り合って見えるからってだけの理由に違いないんだもの。そんな風にしか私たちを見られない人たちの言いなりになってたまるかってね、そう思ったの。――その思いは健二や修太郎も同じはずよ? だから……」
そこで佳穂さんは私を正面からひたと見据えられた。
「だからね、日織ちゃん、貴女も自分の気持ちに正直になればいいの」
今までも散々いろんな方々から言われてきた言葉。
ここにきて、すべてが繋がった気がした。
ただひとつ。
(でも……じゃあ、何故……? 何故健二さんはお嫁さんにもらう気もなかったはずの私を、市役所に入れてまで変えようとなさったの?)
「……なっ、お前っ」
これにはさすがに健二さんも驚かれたみたいで、佳穂さんが離れたと同時に、いきなり奪われた唇を押さえて真っ赤になられる。
「てぃ、TPOをわきまえろっ」
言いながらも、それはキスされたことが嫌だという感じではなくて……、こういう場でいきなりそんなことをされてしまったことを照れていらっしゃる感じだった。
「あら? だって健二。口でいくら言うよりこの方が手っ取り早いじゃない」
ペロッと舌をお出しになると、佳穂さんがとても楽しそうにクスクス笑う。
「……この、酔っ払い女っ」
健二さんが吐き捨てるようにそうおっしゃるのをクスクス笑いながら受けて、「私がこのぐらいじゃ酔わないの、健二が一番知ってるでしょうに」と畳み掛ける。
「佳穂、健二、お前ら……」
と、横合いから今まで無言だった修太郎さんの驚いた声がして。
どうやら修太郎さんもお二人のことはご存知なかったみたいで、呆然とつぶやかれたそのお声に私も驚く。
あぁ、そういうことだったのか、と修太郎さんが合点がいったように独り言を吐き出されたのをお聞きして、私はやっと声を出すことが出来るようになった。
「あ、あの……」
私はお二人のキスを見て、何故か照れてしまって――多分それは日頃は余裕綽々な健二さんの照れる姿を目の当たりにしてしまったことも影響していると思う――、声を発してはみたものの、しどろもどろになってしまう。
やっとしぼり出した呼びかけにしても、健二さんへ向けたものなのか、佳穂さんへ向けたものなのか自分でも分からなくて。言いさしたまま、次の句がつげなくて止まってしまう。
「日織ちゃん、修太郎。私と健二はね、ご覧の通り付き合ってるの」
言葉足らずな私の意図を汲まれたように、健二さんの腕にご自身のそれを絡めると、佳穂さんは「お似合いの二人でしょう?」と胸をお張りになる。
佳穂さんに腕を捕らえられた健二さんが困り顔をなさっているのが印象的で。
でも、すぐに諦めたように溜め息混じりに「前に日織さんにも話したと思うんですけど、俺、はっきりした女が好きなんです」と苦笑なさる。
(そういえば、前に電話でそのようなことをおっしゃられていたのですっ!)
と思い出した私は、
(あれは……佳穂さんのことだったのですね)
今更のように健二さんの言葉の真意を知ることになった。
「外野の目論見なんて知ったこっちゃないわ。大体私と修太郎を……っていうのだって、その方が年齢が釣り合って見えるからってだけの理由に違いないんだもの。そんな風にしか私たちを見られない人たちの言いなりになってたまるかってね、そう思ったの。――その思いは健二や修太郎も同じはずよ? だから……」
そこで佳穂さんは私を正面からひたと見据えられた。
「だからね、日織ちゃん、貴女も自分の気持ちに正直になればいいの」
今までも散々いろんな方々から言われてきた言葉。
ここにきて、すべてが繋がった気がした。
ただひとつ。
(でも……じゃあ、何故……? 何故健二さんはお嫁さんにもらう気もなかったはずの私を、市役所に入れてまで変えようとなさったの?)
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした
日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。
若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。
40歳までには結婚したい!
婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。
今更あいつに口説かれても……
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる