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佳穂さん
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佳穂さんは、ご自身の方を向かれた健二さんの頬に軽く手を添えられると、当然のようにその唇をお塞ぎになられて。
「……なっ、お前っ」
これにはさすがに健二さんも驚かれたみたいで、佳穂さんが離れたと同時に、いきなり奪われた唇を押さえて真っ赤になられる。
「てぃ、TPOをわきまえろっ」
言いながらも、それはキスされたことが嫌だという感じではなくて……、こういう場でいきなりそんなことをされてしまったことを照れていらっしゃる感じだった。
「あら? だって健二。口でいくら言うよりこの方が手っ取り早いじゃない」
ペロッと舌をお出しになると、佳穂さんがとても楽しそうにクスクス笑う。
「……この、酔っ払い女っ」
健二さんが吐き捨てるようにそうおっしゃるのをクスクス笑いながら受けて、「私がこのぐらいじゃ酔わないの、健二が一番知ってるでしょうに」と畳み掛ける。
「佳穂、健二、お前ら……」
と、横合いから今まで無言だった修太郎さんの驚いた声がして。
どうやら修太郎さんもお二人のことはご存知なかったみたいで、呆然とつぶやかれたそのお声に私も驚く。
あぁ、そういうことだったのか、と修太郎さんが合点がいったように独り言を吐き出されたのをお聞きして、私はやっと声を出すことが出来るようになった。
「あ、あの……」
私はお二人のキスを見て、何故か照れてしまって――多分それは日頃は余裕綽々な健二さんの照れる姿を目の当たりにしてしまったことも影響していると思う――、声を発してはみたものの、しどろもどろになってしまう。
やっとしぼり出した呼びかけにしても、健二さんへ向けたものなのか、佳穂さんへ向けたものなのか自分でも分からなくて。言いさしたまま、次の句がつげなくて止まってしまう。
「日織ちゃん、修太郎。私と健二はね、ご覧の通り付き合ってるの」
言葉足らずな私の意図を汲まれたように、健二さんの腕にご自身のそれを絡めると、佳穂さんは「お似合いの二人でしょう?」と胸をお張りになる。
佳穂さんに腕を捕らえられた健二さんが困り顔をなさっているのが印象的で。
でも、すぐに諦めたように溜め息混じりに「前に日織さんにも話したと思うんですけど、俺、はっきりした女が好きなんです」と苦笑なさる。
(そういえば、前に電話でそのようなことをおっしゃられていたのですっ!)
と思い出した私は、
(あれは……佳穂さんのことだったのですね)
今更のように健二さんの言葉の真意を知ることになった。
「外野の目論見なんて知ったこっちゃないわ。大体私と修太郎を……っていうのだって、その方が年齢が釣り合って見えるからってだけの理由に違いないんだもの。そんな風にしか私たちを見られない人たちの言いなりになってたまるかってね、そう思ったの。――その思いは健二や修太郎も同じはずよ? だから……」
そこで佳穂さんは私を正面からひたと見据えられた。
「だからね、日織ちゃん、貴女も自分の気持ちに正直になればいいの」
今までも散々いろんな方々から言われてきた言葉。
ここにきて、すべてが繋がった気がした。
ただひとつ。
(でも……じゃあ、何故……? 何故健二さんはお嫁さんにもらう気もなかったはずの私を、市役所に入れてまで変えようとなさったの?)
「……なっ、お前っ」
これにはさすがに健二さんも驚かれたみたいで、佳穂さんが離れたと同時に、いきなり奪われた唇を押さえて真っ赤になられる。
「てぃ、TPOをわきまえろっ」
言いながらも、それはキスされたことが嫌だという感じではなくて……、こういう場でいきなりそんなことをされてしまったことを照れていらっしゃる感じだった。
「あら? だって健二。口でいくら言うよりこの方が手っ取り早いじゃない」
ペロッと舌をお出しになると、佳穂さんがとても楽しそうにクスクス笑う。
「……この、酔っ払い女っ」
健二さんが吐き捨てるようにそうおっしゃるのをクスクス笑いながら受けて、「私がこのぐらいじゃ酔わないの、健二が一番知ってるでしょうに」と畳み掛ける。
「佳穂、健二、お前ら……」
と、横合いから今まで無言だった修太郎さんの驚いた声がして。
どうやら修太郎さんもお二人のことはご存知なかったみたいで、呆然とつぶやかれたそのお声に私も驚く。
あぁ、そういうことだったのか、と修太郎さんが合点がいったように独り言を吐き出されたのをお聞きして、私はやっと声を出すことが出来るようになった。
「あ、あの……」
私はお二人のキスを見て、何故か照れてしまって――多分それは日頃は余裕綽々な健二さんの照れる姿を目の当たりにしてしまったことも影響していると思う――、声を発してはみたものの、しどろもどろになってしまう。
やっとしぼり出した呼びかけにしても、健二さんへ向けたものなのか、佳穂さんへ向けたものなのか自分でも分からなくて。言いさしたまま、次の句がつげなくて止まってしまう。
「日織ちゃん、修太郎。私と健二はね、ご覧の通り付き合ってるの」
言葉足らずな私の意図を汲まれたように、健二さんの腕にご自身のそれを絡めると、佳穂さんは「お似合いの二人でしょう?」と胸をお張りになる。
佳穂さんに腕を捕らえられた健二さんが困り顔をなさっているのが印象的で。
でも、すぐに諦めたように溜め息混じりに「前に日織さんにも話したと思うんですけど、俺、はっきりした女が好きなんです」と苦笑なさる。
(そういえば、前に電話でそのようなことをおっしゃられていたのですっ!)
と思い出した私は、
(あれは……佳穂さんのことだったのですね)
今更のように健二さんの言葉の真意を知ることになった。
「外野の目論見なんて知ったこっちゃないわ。大体私と修太郎を……っていうのだって、その方が年齢が釣り合って見えるからってだけの理由に違いないんだもの。そんな風にしか私たちを見られない人たちの言いなりになってたまるかってね、そう思ったの。――その思いは健二や修太郎も同じはずよ? だから……」
そこで佳穂さんは私を正面からひたと見据えられた。
「だからね、日織ちゃん、貴女も自分の気持ちに正直になればいいの」
今までも散々いろんな方々から言われてきた言葉。
ここにきて、すべてが繋がった気がした。
ただひとつ。
(でも……じゃあ、何故……? 何故健二さんはお嫁さんにもらう気もなかったはずの私を、市役所に入れてまで変えようとなさったの?)
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