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佳穂さん

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日織ひおりちゃん。大丈夫?」

 修太郎しゅうたろうさんにぎゅっとハグされたまま固まってしまった私に、佳穂かほさんが声を掛けていらっしゃる。

 私は佳穂さんの声に慌てて身じろぐと、修太郎さんの胸から身体を離した。

 余りにも身体をくっつけてしまったことで、修太郎さんの香りが自分にもほんの少し移っていて、それが何だか心をざわつかせる。

 私が慌てて席に戻ったところで、トリュフ入りのクリームスープ、そうしてライ麦パントゥルト、鴨の胸肉のローストなどが運ばれてくる。

 それは、(もしかして私が席を立っている間、料理をきょうするのを待っていてくださったのかしら?)と思ってしまうようなタイミングだった。

 食事がテーブルに並べられて、給仕の方がいなくなるのを見計らうと、私は佳穂さんに頭を下げる。

「ご、ごめんなさいなのです……っ」

 仮にも佳穂さんの前で修太郎さんに抱きしめられてしまうなど。あまつさえそれを嫌がる素振りも見せずに享受きょうじゅしてしまうなど。私が佳穂さんの立場だったらモヤモヤして当然だと思ってしまった。

「日織さん、佳穂なんかに謝る必要ことはない」

 なのに修太郎さんは私の言葉をスパッと断ち切ると、再度私の手をギュッと握っていらして。

「そもそも佳穂と僕は……」

 そのまま話を続けようとなさる修太郎さんをさえぎって、佳穂さんが口を開かれる。

「そもそも私と修太郎の間には恋愛感情なんて微塵みじんもないのよ? ――親たちは勝手にそうなってくれたらって期待したみたいだけれど」

 そう付け加えてから、佳穂さんはグラスを手にとって琥珀色のシードルを口に含む。

 それからおもむろに横に座る健二さんをちょんちょん、とつつかれてから――。

「――えっ⁉︎」

 思わず私は固まってしまった。
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